ずぶ濡れで抱き合う


>>高銀
 


 乱戦となった戦場を清めるように、雨が降り注ぐ。刀を握りしめていた手は、雨の冷たさでさらに感覚を失い、まるで自分のものではないような錯覚を覚える。
 顔に付いた血を洗い流したくて雨空を見上げれば、どこまでも暗い空があった。それでも、死体に埋め尽くされた真っ赤な地上に比べればマシに思える。

「銀時、戻るぞ」

 背後から声を掛けられて振り返れば、そこには黒の洋服を血でさらに濃く染めた高杉の姿があった。
 一面に転がる死体を避けながら歩を進めてくるのを一瞥してから、もう一度、空を見上げた。

「何かあんのか?」

 先よりも近くなった声。今度は振り返ることなく、ただ首を横へ振った。
 べちゃ、とぬかるんだ土を踏む音がして、隣に高杉が並ぶ。戦の直後だというのに、その顔には興奮の跡すらない。それはきっと自分も同じで、きっと情けないほどに士気のない顔をしているのだろう。

「この先に‥、廃屋があった」

 どれだけ二人で空を眺めていたかわからない。不意に高杉が口を開いたかと思うと、手首を握られて突っ張られた。
 足の踏み場を選ぶように、けれど力強く進む背中に引かれなから歩き出す。

「雨足も強まってきたからなァ、今夜はそこで凌ぐか」

 今の拠点にしている場所へは戻らず、と告げる高杉に、胸がきつく締め付けられる感覚を覚えた。
 昔からこの男は見ていないようで、誰よりも気にしてくれている。その不器用な優しさに幾度も救われてきた。

「ん、」

 何の言葉も返せず、ただ頷く。そうすれば、高杉はほんの少しだけ微笑みながら振り返った。
 ぐい、と腕を引かれたかと思えば、自分よりも少しだけ小さい、けれども大きな体に包まれた。

「俺の見えねェとこで、死ぬな」

 呟くように告げられた言葉に、また頷きを返す。視界の端に捉えた、遠くの空は、微かに蒼かった。



END.

ついったでの診断「ずぶ濡れで抱き合う」高銀ver

04.14 移動


back