白鴉と黒猫 01
>>高←銀←土
夜だと言うのに、ギラギラと煩いネオンが空を照らす街、かぶき町。
様々な人が往来する道の脇、ネオンが薄まり、替わりに薄汚い闇が満ちる路地裏で銀時は滅多に吸わない煙草を燻らせていた。
「おい、そこで何してる」
ふぅ、と紫煙を吐き出した銀時に、よく聴きなれた声が掛けられる。
路地の入り口、明かりを背にして立つ黒い隊服を着込んだ男、土方がそこに居た。
「、万事屋か」
どうやら銀時と気付かずに、路地裏の怪しいやつに職務質問をかけるつもりだったらしい。塗装の禿掛けた壁に背を預けて煙草を咥える銀時を確認し、土方は眉根を寄せながら歩み寄る。
「てめぇ、ここで何してんだ」
「・・見てわかんない?煙草吸ってんの」
肺一杯に吸い込んだ紫煙を吐き出しながら、銀時は無表情に返した。
全身から拒絶の気を発する銀時は、普段の飄々とした姿など微塵も感じさせず、むしろ危険な存在のように感じられた。
「んなこと聞いてんじゃねぇ」
「じゃ、何?」
拒絶の居心地の悪さを無視して、土方が紡いだ言葉は途中で銀時によって遮られる。一刻も早くこの場所から去って欲しいのかのようなそれに、土方はさらに眉根を寄せた。
「何でこんなとこに居んだ」
「別に、俺がどこに居ようと関係ないでしょ」
ばっさりと切り捨てられる。
銀時はだいぶ短くなった煙草を捨て、足で火種をもみ消すと寄りかけていた背を離し、土方を見る事無く脇をすり抜ける。
軽口を言うでもなく、ましてやいつものようにふざけた呼び名で呼ぶでもない銀時に、妙な焦りを感じた。
「お前、」
「放してくんない?」
無意識のうちに腕を掴み、その場を去ろうとする銀時を引き止める。
こちらを見ようとしない銀時をどうにか振り向かせたくて、腕を掴む手に力を込めた。
「答えろ。何でこんなとこに、っ!」
口調を強めて問えば、掴んでいた手を振り払われ壁へと押し付けられた。背を強かに打ち付けた土方は、咳き込みながら銀時を睨み上げる。
予想以上に近い銀時の瞳と交わった瞬間、全身が硬直するような殺気に襲われる。
「ねぇ、関係ないって言ったでしょ」
どこまでも冷たい瞳をした銀時は、無表情のまま土方を見返す。
まるで刀を首筋に当てられているかのような鋭い殺気に、土方の頬を汗が一筋伝った。それなりの死線を潜り抜けてきた土方だったが、これほどまでに鋭く冷たい殺気は知らない。
「お前には関係ない」
瞳の奥に燻っている狂気が、殺気となって土方へ向けられる。
以前、出会って間もない頃に刃を交えたときも、己と真撰組の危機の際に鬼兵隊の河上万斉と戦ったときでさえ、銀時はこれほどの殺気など発していなかった。否、殺気などほとんどなく、彼が発していたのは護るために戦う闘気だった。
「よ、ろず屋」
「あのね。それ、俺の名前じゃないんだけど」
おかしい。土方は今目の前に居る男が、一体誰なのか分からなくなっていた。確かに万事屋を営む男、坂田銀時であるはずなのに、全く別人のようだ。
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