慟哭
※第393訓ネタバレ
投げて寄越された白い塊。
ずしり、としたそれを受け取りながら、目の前の男を睨むのをやめない。
「もう要らぬものだ。貴様へ返そう」
目の前のこの男と会ったことなどないが、腸が煮えくり返りそうな感情ばかりが湧いてくる。
奴を殺さなければ。そう思うが、今抱えている包みを手放すことが出来ない。
その中身が何のかはわからないが、何故か手放してはならないような気がした。
「せいぜい抗え、白き夜叉(おに)よ」
言葉と共に放たれるクナイから包みを庇うように半身を逸らしながら剣で払う。視線を男へと戻したときには、すでにその姿はなかった。
残ったのは白い包み。丁度、人の頭ほどの…
そこで理解した。包みの中身はきっと。
「銀時!」
遠くから呼ぶ声がする。しかし、体は愚か視線すら動かせない。
呼吸すらままならなくなるほど、目の前が真っ暗になる感覚が襲った。
「どうした、銀時!?」
体を揺する手を払う。ガタガタと震えるのを止められない。
腕に抱いた包みの重みが増した気がした。
「‥、それは何だ?」
抱えているそれに気付いたのか、桂が手を伸ばす。それすらも払った。
「銀時?」
「おい、銀時!」
全てを放棄した脳がどうにか動いて彼らへと視線を向ける。きっと情けない顔をしていたのだろう。彼らの目が見開かれる。
「‥‥‥、銀時、そいつを寄越せ」
手を出したのは高杉。その瞳に映る自分と彼はよく似た表情をしている。
緩慢な動きで包みを差し出すと、高杉は泡でも触るかのような手つきでそれを受け取った。
ゆっくりと地へ置かれたそれが、ふわり、と開かれる。まるで世界の全てが停止したような静寂が辺りを支配した。
「せ、んせい」
呟いたのは誰か。
包みから現れたのは、紛れもなく自分たちの師だった。先生の、首だった。
目を瞑ったそれは、まるで寝ているようで見ていられなかった。
首だけの姿。生きてはいない。それが、現実として突きつけられる。
数多に見てきたどの死よりも、美しく、けれどもどれよりも残酷だ。
「松陽先生、」
桂の声。それは先生の死を認めているのか。哀しみと憎しみが滲んでいた。
「松陽先生、」
高杉の声。それは先生の死を信じたくないのか。絶望と拒絶が滲んでいた。
けれど、皆共通しているのは“終わり”だった。自分たちのあらゆるものが終わった、そんな感じがした。
空を見上げても、何も瞳には映らない。体の中で渦巻くドロドロとしたものを声のない慟哭が響いた。
END.
本誌ェ‥‥
12.03.27
back