護ること


 血の臭いがする。懐かしい臭いが。
 夜叉だ、修羅だ、と言われてきて、いつしか自分でもそうなのだと思うようになっていた。
 自分は、誰かの命を奪って生きている。鬼なのだと。

『銀時、お前はただの子供ですよ。可愛い、子供です』

 そう言った人は、誰よりも強い魂と剣を持っていたけれど、死んでしまった。きっと、自分が奪ってしまった。
 誰とも関わらなければ、大切な人などつくらなければ、奪われることもない。そう思ったのに、拒絶した自分を彼らは殴り付けて、そして抱き締めた。

『銀時。俺たちは、お前を独りにはしない!』
『おめぇ、俺がそう簡単に死ぬとでも思ってんのか?』

 バシバシと背を叩きながら、それよりも強い力で抱き締める彼らから離れることは出来なかった。
 知っていた。自分は寂しかったんだと。大切な人が欲しかったのだと。
 だから、もう奪われないように、強くなろうと思った。それが、人間を捨てるものになろうとも。

『おんしは強いの、銀時。そんで、弱いぜよ』

 笑いながら言う彼は、くしゃくしゃと髪を撫ぜてきた。その手がいつかのあの人に重なって、苦しくなった。
 死が満ちる戦場で、大切な人は増えていったけれど、同時に減っていった。
 仲間が出来ては、死んでいく。護れず、奪われていく。奪っていくのだ、自分が。
 いつしか自分のことを、“白夜叉”と呼ぶ者が増えた。
 そこに含まれているのは畏怖と拒絶。
あの時の誓いは本物になった。自分は、人間を捨てたのだ。

 戦争が終わって、独りになった。いつ振りか、完全な独り。
 死んでもいいという心とは裏腹に、腹は生きろと鳴く。それが余りにも煩くて、あの饅頭に手を伸ばした。
 否、本当は心が訴えてたのだ。独りは寂しい、と。

『オレが、護ってやる』

 今更、何を言うのか。自分に呆れながらも、また大切な人を求めた。
 そして、一人、また一人と大切な人が増えていって。またたくさんの大切な人に囲まれるようになっていた。
 もう奪わせない。全部、全部護る。
 そう思っていた自分に、一回り程違う子供たちが言った。

『強くなりたい』

 誰かを護るために、強くなりたいという子供たちの瞳は真っ直ぐだった。
 それを見て、怖くなった。この子供たちを、自分のような鬼にするのか、と。
 けれど、子供たちの護りたい人の中に自分が入っているのだと知って、護るだけじゃなく護られることを知った。
 あの人も、彼らも、バアさんも。自分は、ずっと護られていた。それに気付いた。
 護っている気になっていて、奪われたのは自分が弱いせいだと思っていた。けれど、その弱さは頼れない弱さで、護られていることに気付いていない弱さだった。

『俺の背中、てめぇらに預けるぜ!』

 やっと、自分は強くなれた気がする。
 大切な人たちを奪わせない。大切な人から、大切な人を奪わせない。
 誰も死なせない。自分も死なない。
 護ることが自分の強さなら、自分自身も護ろう。そう、思えることが何だかくすぐったいけれど、どこか温かいと感じられた。



END.

護る、本当の意味を知って強くなる。

12.03.20


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