暖冬


>>万事屋



 牡丹雪が頬を掠めて、融ける。まるで涙のように流れ落ちては、顎に辿り着くことなく消えた。
 ふぅ、と大袈裟に息を吐けば、白く浮き上がって雪を揺らす。

「さむ、」

 口に出したが、特に寒さを感じているわけでもない。
 今は暖かい上着やマフラーがあるし、帰る家もある。何より、独りではない。
 少し前を雪玉を投げ合いながら歩く子供たちが目に入る。
いつからか、彼らと共に歩くために遅くなった歩調。それに気付いた時、自然と頬が緩んだ。
嫌じゃない、むしろ嬉しいと感じたことに戸惑いはなく。すんなりと受け入れていた。

「銀ちゃーん!」
「遅いですよ!銀さん!」

 知らず、雪を追うように見上げていた視線を、声のする方へと向ける。
 雪まみれの新八と、鼻先を真っ赤にした神楽。何とも愛おしく思えて、2人のもとへ駆け寄ると雪の積もった頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
 ぎゃーぎゃー、と騒ぎながらもそれを受け入れて笑う2人が、ますます愛おしい。

「おら、ガキ共。帰んぞ」

 きっと、あの人もこんな気持ちだったのかもしれない。
 自分はこんなに可愛くはなかったし、強くもなかったけれど。あと、あの人はこんなに不器用でもなかった。
 両の腕では抱えられないほど、愛されていた。今はそう思える。

「帰ったら、温かいもの飲みたいアル」
「だそうだぞ、新八」
「はいはい」

 3人並んで、さらさらと積もっていく雪を踏んで歩く。くっきりと残った足跡はすぐに他のものによって消されてしまうけれど、それでも彼らの歩んだ跡が消えることはない。
 笑い合う声が雪を揺らして、はらりと散っていく。
 暖かい冬。これからも、ずっと。きっと。



END.

寒い冬も、大切な人と居ると暖かい。なんつってね。

2011.12.28


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