灰色の戦場と頭上の曇天が重なり、あの殺伐とした空気が自身を満たしていく感覚に銀時は歩みを速めた。
 すれ違う人々を敵か味方か、などと警戒してしまう。後ろを歩く気配に、恐怖とともに昂揚するのがわかる。
 銀時の意識は、徐々に戦場へと引き込まれていく。

(や、べぇか・・)

 銀時は歩む速度を緩めずに、辺りを見回して薄暗く湿った路地裏へと入った。
 通りとはまるで違う空気はより一層戦場に似ていて、頭痛が増す。その余りの痛みに、銀時はよろめいて壁に手を付いた。

「っ、はぁ・・は、」

 フラッシュバックする記憶を堪えるように壁に爪を立てれば、脆い塗装が剥がれ落ちた。
 荒い息を繰り返しては、どうにか落ち着かせようとする。

(に、おいが・・する)

 戦場の臭いが。血と泥の臭い、肉が焼ける臭い。酷い死臭がする。
 懐かしい、あの臭い。

 きつく唇を噛めば、鉄の味が広がった。リアルなその味すらもかき消すほどの、激しい記憶の波に銀時は震える体を壁へと預けた。
 ひんやりと冷たい温度が伝わってきて、過ごしだけ痛みを和らげる。

「きもち・・わりぃ、」

 唾と交じり合った血を吐き捨てて、空を見上げる。狭くなった空は、先と変わらず分厚い雲に覆われている。

「っ、い・・てぇ」

 脈打つ痛みに体を折り曲げて耐える。己の中で渦巻く殺気で、くらくらと眩暈が襲ってきた。
 銀時は壁に手をつきながら、通りに背を向けてさらに路地裏の奥へと歩みを進めた。誰も居ないところでこの殺気を解放してしまいたい。そのことばかりが頭の中を占めていた。
 だから、銀時は背後から近付く気配に全く気付くことが出来なった。

「っ!!」

 気付いたのは、後頭部に衝撃が走った瞬間。
 背後に立つ人影を視界の端に捉えながら、銀時の意識は闇のなかへと引きずり込まれていった。



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