(俺たちの世界は、今も先生が中心だ。)



 これまでの人生の最悪なシーンだけをダイジェストにしたような夢を見た。血濡れたそれを振り払うように、鈍い頭痛を訴える頭を振る。
 鼻に残る血の臭い、肉を裂き骨に刃のあたる感触。それは全てかつての戦場のもの。
 思い出せ、と怒鳴るように頭痛が増すのに対して、感覚はどこまでも研ぎ澄まされていく。

「っは、や・・めろ」

 戦場へ、引き戻される。
何もかも失い、護れなかった。あの戦場へ。


 月の綺麗な夜。昼間の怒号が嘘だったかのような静寂が、闇を包んでいる。
 一時的な拠点としている古寺の一室で、銀時らは疲弊した体を休ませていた。

「あー・・うー・・」
「・・うるせぇよ」

 うつ伏せになりながら唸る銀時を、壁に寄りかかり座っていた高杉が足蹴にする。いて、と非難の声を上げながら起き上がり、銀時は高杉の足を引っ張った。

「てめぇ、何しやがる!」
「蹴ってきたのはお前だろ!」

 幼稚な喧嘩を始めた銀時と高杉を、壁に背を預けて座る桂は溜め息を吐きながら、床に寝転んだ坂本は笑いながら見ている。
 ギャーギャーと騒ぐ2人はそれでも疲れているようで、まるで子供のような悪口の応酬をするだけだ。

「貴様ら、いい加減にしろ」

 わざとらしく大きく溜め息を零して、桂は立ち上がり2人の元へと歩み寄る。面倒だと書いてある顔は、しかし、どこか嬉しそうだ。

 この殺伐した戦場で、変わらない友の存在が彼らの支えとなっていた。
 それぞれが抱くものに多少のズレを感じながらも、それでも共に歩き、背を預けられる仲間であることが嬉しい。
 友情や同志など、そんな言葉が陳腐に思えるほどの絆で繋がっている。少なくとも、銀時にとっての戦う意味はそれで全てだった。
 だから、敗戦の後に散り散りとなった時、何もかもを失った気になったのだ。月日が過ぎて、それが“生きる”ということなのだと理解したのだが。

 喩え絶望的な日々だったとしても、彼らと共に在ったことに喜びに似た感情を抱いている。
 久方に再会した彼らが変わっていなかったことに、銀時は安堵していた。
 相変わらず桂は堅物で、坂本は能天気で。高杉も、その根底にあるものは何も変わっていなかった。
 桂も高杉も、銀時も。全ての中心は吉田松陽のままだ。
 桂は師と同じように髪を伸ばし姿形を似せ、彼の理想とした世界の何たるかを見つめては変革を求めていた。
 高杉は、師を奪った世界を壊そうとしている。狂気と悲しみの果てで、師の影を追っていた。
 そして銀時は、“護る”ことに捉われていた。かつて護れなかったものへの償いであるかのように、ひたすらに護るために血を流していた。



 外に浮かぶのは、緋に染まった満月。銀時は徐々に治まっていく頭痛に息を吐きながら、己の両手を見下ろした。
 幾つもの傷が残るそれを額へと押し当てて、震えを必死に押さえ込もうとする。

「せ、んせぇ」

 無意識に零れた呼び声は、夜の静寂へと霧散していった。



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