襖の向こうへと消えた桂と銀時を追うことはおろか、動くことすら出来ずにただ閉じられた先を見つめる近藤らは、疎外感に似た感情を覚えていた。
 泣き叫ぶ銀時の声と、暴れているのか派手な物音だけが聞こえる。

「っ、」

 自分たちの知らない銀時に、戸惑うでも臆するでもなく受け止めなだめる桂。自分たちの知らない二人の関係に、言いようのない感情が生まれる。
しかし、今は銀時の様子が気掛かりでならない。幼子のように取り乱す銀時の声に、近藤は耳を塞ぎたくなるのを必死に抑えた。

「近藤さん、」

 どうすることも出来ずに時が経つのを待っていた近藤を土方が静かに呼んだ。
 桂と銀時が奥の部屋へと入ってからどれほど経ったのか、否、それ程の時間は経っていないであろう。まだ銀時の泣き叫ぶ声が近藤の鼓膜を震わせていた。
 土方の声音は戸惑いが色濃く感じられ、彼もまたこの状況をどうすることも出来ずにいることがわかった。

「あ、」

 不意に沖田の声が上がる。それと同時に閉じられていた戸が開いた。
 しかしそれは近藤らの目の前にある奥へ続く襖ではなく、ここへ入ってきた障子戸だった。

「おめぇは‥」

 気配もなく戸を開けたのは白い化け物、もとい、エリザベス。表情など全くないそれは、淡々とした動作で手に持ったプラカードを掲げた。

『今日は帰りな、小僧共』

 殴り書かれたそれに、土方も沖田も眼光鋭く睨みつけた。今にも抜刀しそうな勢いの二人に、近藤は苦笑を洩らしながらも腰を上げる。

「近藤さん!」
「俺達が居ても、どうしようもねぇさ」

 エリザベスの立つ戸口まで歩を進める近藤の背を見ながら、土方は一度、気持ちを落ち着かせるように息を吐く。すると、途端に紫煙が恋しくなった。
 近藤の言葉はもっともで、ここに居たとしても銀時の悲痛な声を聴いていることしか出来ない。土方と沖田は、来た時と同じように近藤に倣って腰を上げた。

「しばらくは、ここに居るのか?」

 しょっ引きゃしねぇよ、と続けた近藤に、エリザベスは全身を使って頷いた。
 あの銀時の様子からして、不用意には動けないだろう。近藤は今一度、奥への閉じられた襖を振り返る。
 未だ変わらず聞こえる銀時の声と物音に眉をひそめる。そして、再びエリザベスへと向き直ると、真剣な面持ちで口を開いた。

「ガキ達には上手く言っておく。‥万事屋を、頼む」

 いつの間にか出来た腐れ縁という関係だが、彼らにとって銀時の存在は大きなものになっていた。
 今の自分たちでは、彼に対して何をすることも出来ない。歯痒さと悔しさを感じながらも、近藤は頭を下げた。



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