人一人の顔がようやく見える程の隙間だけ開かれた襖。その隙間から顔を覗かせたのは、彼らもよく知る人物だった。

「万事屋?」

 奔放な毛先の白い髪が撫ぜる頬に幾筋の傷が走る、腐れ縁とでも呼べる関係の男。
 思いも寄らなかった人物に、近藤は戸惑いと驚きに声を上げた。すると、その声にビクリと肩を震わせた銀時は、襖の陰へと隠れてしまった。

「お、おい‥?」

 常の彼では決してとらないような行動。よくよく思えば、覗かせた表情も、纏う雰囲気も彼とは違うものだった。
 人を躱すようなそれではなく、まるで拒絶するような瞳と空気。
 近藤らは見たことのない銀時の様子に、ただ困惑するばかりだ。

「‥、銀時」

 近藤らの困惑を余所に、桂が彼の名を呼びながら立ち上がる。
 桂が戸口へと立つと、その袖へと包帯の巻かれた手が伸ばされる。包帯の白さと見紛うほどの白い手が、きつく袖を掴む。

「どうした、銀時」
「‥‥、ヅラ、先生、起きない」

 良く透る低音はまさしく彼のものであるが、その声音は弱々しく、そして幼い。
 掴まれていない方の手を上げ、桂が銀時の頭に触れる。襖の陰になっていてその様子は見えないが、まるで壊れ物に触る様な優しいその手付きに近藤らはさらに戸惑う。

「昨夜、遅くまで本を読んでらっしゃったから、疲れていらっしゃるんだろう」

 桂の纏う雰囲気も、声音も、その全てが柔らかいものだ。
 穏健派と言えども攘夷志士である男のその姿に、言葉を発することはおろか動くことも出来ない。

「けど、先生、俺が起きると、起きる」

 たどたどしい言葉で告げる銀時の白い手がさらに白くなるほどに、袖を掴む手に力が入る。
 カタカタと震えるその手に巻かれた包帯に、微かに血が滲む。

「起きない、先生、起きない。起きない、だって、先生、先生っ!」

 袖を掴む手が離れ、銀時が言葉にならない声を上げる。
 先生、と何度も叫ぶ銀時の声は余りにも悲痛なもので、近藤は眉をひそめた。

「銀時っ」

 伸ばされた桂の手を払ったその手が、襖へとぶつかり大きな音を立てた。
 嗚咽が零れ、呼吸すらままならなくなっている銀時の肩を無理矢理に掴み、桂が部屋の中へと入る。
 後ろ手で襖を閉めながら、近藤らを一瞥する。その瞳は殺気に似た鋭い色で、動くな、と告げていた。



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