それは私ではないから >>普独←仏 ふわり、と微笑んだ彼を、俺は離れた場所から見ていた。 彼―正確には彼ら―に気付いたのは、何となしに街をふら付いていたときのこと。ワインでも買って帰ろうかと思っていた俺の視界に入ったのは、オープンカフェで語らうギルベルトとルートヴィッヒだった。 (・・嗚呼、) やっちまったかな、なんて、何に対する後悔かはしれないが苦しくなった胸に溜め息を零した。今更何を悔やんで仕方ない。と、どうにか自分を言いくるめて足早にその場を立ち去ろうと背を向けて歩き出そうとした。 そんな俺に聞こえたのは、聞きなれた昔馴染みの笑い声。振り返らなければいいのに、思わず彼らへと視線を戻す。 (嗚呼、綺麗だな) 振り返った先にあったのは、幸せそうに笑う2人の姿。普段は仏頂面のルートヴィッヒも、頬を緩めて目の前に座るギルベルトを見つめていた。 (・・・・、・・よかった) 少し胸が痛んだが、それでも本心でそう思える。 彼らが引き離されて隔てられていた頃、俺が見ていたのはこの世の終わりのような蒼瞳をしたルートヴィッヒだった。気丈に振舞いながらも、ふとした瞬間に崩れてしまうのではないかという危うい彼を俺は見ていることしか出来ずにいた。どんな言葉も彼を癒すことなど出来はしない。 (俺じゃ、あいつを幸せには出来ない) きっと、人の温もりを求めていた彼を自分のものにすることは容易かっただろう。傷付き、嘆く彼を優しい言葉と共に抱き寄せれば手に入った。 けれども、そんな事出来るわけない。だって… (あいつを俺のものにするよりも、) ルートヴィッヒが幸せに笑っていることの方が、俺には大切なことだから。 彼と笑い合い、彼を抱き締め、彼に愛を囁き、彼を幸せにするのは俺じゃない。俺には、決して叶えられない。 だから、彼が幸せに笑っていられるなら、俺はそれだけで十分だ。彼の幸せが俺の幸せだなんて聖者めいたことは言えないが、それでも彼が幸せでいてくれるならそれでいい。悲鳴を上げるこの胸の痛みなど、幾らでも耐えてやろう。 (あいつが幸せでいられれば、それでいい) それを与えられるのが俺じゃないだけ。ただ、それだけのことだ。 嗚呼、ルートヴィッヒ。君を愛しているから、どうかずっと幸せに笑っていて。 end. 前サイトから。 フラルーも好きです。好きだけど、これ‥ 12.09.28 ← |