Buon Compleanno


>>ムクツナ(骸誕生日記念)



 闇夜に浮かぶ淡い月。唯一の光を放つそれが雲によって隠され、一面を常闇が染め上げる。
 何もない空を見上げていた骸は、不意に気配を感じて振り返った。

「おやおや、こんなところに何の用です?」

 ふ、と笑みを含めて問いかければ、揺れる影も笑んだように感じた。柔らかい風が吹いて、雲が月を解放すると、途端に光が降り注ぐ。それは、骸の視線の先、微笑みを浮かべた青年を照らし出した。

「ちょっとね。・・骸に、会いたくて」

 コツン、と靴音を響かせて歩み寄る姿は未だ幼さが残るとはいえ、絶対的な何かを感じさせる。
 ボンゴレ10代目ボス―沢田綱吉、その人。

「クフフ・・、随分と冗談が上手くなりましたね」

 楽しげに笑いながら、骸は綱吉を正面から見据える。綱吉もまた、笑みを絶やす事無く骸を見つめていた。

「骸こそ、ここで何してたの?」

 徐々に縮まっていく距離。温かくも絡みつくような空気が辺りを満たそうとしている。まるで、常温の水のような。

「何、という程のことはしていませんよ」
「・・そう」

 ついに2人の間には、一歩の距離しか存在しなくなった。互いに言葉を消し去り、月の光と己の映る瞳を見つめる。

「・・、・・・・」

 優しい声が囁かれたのと、2人の距離がなくなったのは同時。
 そして、再び月が隠され、闇が満ちる。

「・・Buon Compleanno,」

 次に光が現れた時、その場にあったのは口付けの名残だけ。月も、闇も、誰も知らない。
ただ、彼らのみぞ知る世界。



end.

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最後の言葉がイタリア語ということしか覚えてない。

2013.11.02