神罰


 神に恋をすることは、果たして罪になるのか。
 それまで、神なんてものは微塵も信じていなかったし、もし仮に居たとしても残酷なものだと思っていた。けれど、あの日、俺はコートの上に“神”を見た。
 その美しさに、儚さに、強さに。その存在全てに息を飲んだ。

「‥跡部、」

 その名前を呼ぶと、甘い切なさが体に染みわたる。
 同い年の男になんて感情を抱いているのか、と嘲笑しても、彼を見るこの目は変わらない。

「跡部、景吾」

 可笑しな感情だと知ってる。
 それでも、彼を愛おしいと感じ、彼に愛されたいと願ってしまう。

「跡部、」

 嗚呼、自分が浅ましくて醜くて、いっそ笑えてくる。この感情は、あまりにも醜い。
 自分がどれだけ穢れているか、彼がその姿を見れば絶望するだろう。
 そして、きっと嫌うだろう。

「跡部ッ」

 それでも、愛している。愛してしまった。
 神を、彼を、愛している。

「忍足‥、どうかしたのか?」

 掛けられた言葉に視線を上げれば、そこには美しい顔を曇らせた彼が居た。
 見ないで、心を向けないで。愚かな自分が、勘違いしていまいそうになるから。
 こんな自分でも、彼の隣に居ていいのかと、勘違いしてしまうから。

「・・いや、何でもあらへんよ」

 姿のない神ならいらない。
 声のない神ならいらない。
 熱のない神ならいらない。
 自分にとっての神は、ただ一人。

「‥無理すんじゃねーぞ」
「何でもあらへんて。ほら、部活、行こか」

 だからどうか。この感情よ、奥深くで眠っていてくれ。いつか、彼にすべての赦しを請うまで。
 だからどうか。その日まで、彼の隣に居させて。
 果たしてこれは、誰に願うものなのだろうか。
 結局、自分は姿のない神に膝を折る、愚かな人間なのだ。



END.

忍足は過去に何か罪悪感があって、という前提。
跡部が余りにも綺麗過ぎて、神格化してしまったという話。

12.05.31


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