逃がさない


 部屋に響く音に耳を塞ぐことも出来ず、ただ彼を感じる。
 己の中に埋められた熱。浮かされる、侵される。

「跡部・・、」

 過ぎた快感から逃れるように、きつく閉じていた瞳に指が触れる。常よりも高いその体温。触れ合う体の、そのどちらも熱くて。
 何処までが自分で、何処からか彼なのか分からなくなる。

「跡部、目、開けてぇな」

 優しく瞼をなぞられて、羽根のような口付けが落とされる。切なげな彼の声音に鼓動が高鳴った。

「ん、おし‥た、りっ」

 上がる息をそのままに、言われた通りに目を開く。そこに居たのは、熱っぽく自分を見下ろす黒だった。

「や、めっ、見んなっ!」

 余りにも妖艶なその視線に煽られて、可笑しくなってしまいそうになる。彼の瞳に映る自分が、酷く醜い人間に思えた。
 手と腕で顔を隠そうとしても、簡単に彼が寝具に縫い止めてしまう。

「・・跡部、こっち、見て」

 有無を言わさない声音に、逸らしていた視線をゆっくりと彼へと向ける。
 交わった視線に微笑んだ彼の乱れた髪が汗で頬に張り付いて、艶やかな色気を宿している。
 不意に、穿つ楔が脈打つのを感じてその存在を思い出させた。

「っ、あッ!や、忍足っ!」

 再び開始された激しい行為に、浅ましくも声を上げてしまう。
 ぽたり、と頬に落ちた汗に、彼もまた熱に浮かされているのだと知って、どこか嬉しくなった。
 快楽から逃げる体は、しかし、深く彼を誘うものにしかならない。

「跡部っ」
「ん、ぁ、‥おし、たりぃ」

 繰り返し、繰り返し、互いの名を呼んで。絡めあった手と手、交じり合った瞳と瞳、混ざり合う鼓動と鼓動。
 ただ絶頂へと昇り詰めていく意識の中で、そっと彼が耳元で囁くのを聞いた。

「離さんよ、逃がさへん。‥跡部、」

 愛している。そう告げる彼が、可笑しくて笑った。
 初めから逃げる気などないし、むしろ離すつもりも逃がすつもりもない。
 彼に捕らわれて、捕えて。それが心地良いを感じながら、放たれた熱に瞳を閉じた。

END.

裏って、どうやって書けばいいんだろう。

12.03.20


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