深夜二時の僕


 好きという感情を自覚した瞬間に、もうどうしようもなく会いたくなっていた。
 時計を見れば、すでに日付が変わって数時間経っている。常識的に考えれば、電話はもちろん、会いに行くなど迷惑極まりない話だろう。
 それでも、どうしても会いたくなってしまった。

「あかんな、」

 己の気持ちに気付いただけでこれだ。もし通じ合えたとしたら、と考えて一気に怖くなった。
 通じ合えたら、などありはしない。だって、自分もあいつも男なのだから。

「気付いて、すぐに失恋かいな‥」

 これまで、それなりに恋愛というものをしてきた。一通りの経験もある。
 けれども、こんなにも苦しくて切なくて、そして愛おしくて嬉しいものを知らない。
 こんなにも心を動かされるものを、知らない。

「堪らんな」

 初めて見たとき、話したとき、テニスをしたとき。あの瞬間から、ずっと彼のことばかりを見てきた。
 彼の言葉、行動。その全てに惹かれ、常に目で追っていた。
 そして、それを指摘されて初めて気付いた。自分の行動を考えて、考えて。ようやっと出た答えが、即座に崩れ落ちる。

「こんなに好きやのに、」

 通じない。伝えられない。
 もしも自分が女だったら、もしも彼が女だったら。そんなくだらないことを考えて、思わず自嘲が零れる。
 もしもなどないし、どちらかが女だったならあの運命的とも言える出逢いもなかっただろう。

「好きや、跡部」

 こうして呟くことだけは、赦して欲しい。
 少しでもこの想いを吐き出してしまわなければ、きっとすぐに自分は彼へのそれで一杯になってしまう。

「あぁ、ホンマ‥堪らんな」

 長く息を吐いて、目を閉じる。
 浮かび上がるのは彼のことばかりで、もはや自分の中は彼で一杯なのだと知った。
 しばらくは寝不足になりそうだ。けれど、明日も彼に会うために無理矢理に意識を沈めようと布団を被った。
 


END.

自覚した忍足くん。
そして、落ち込む忍足くん。

12.02.10


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