睨み合いながらキスをしろ


 この関係は、何の意味も成さない。
 ただの馬鹿げた好奇心と、断ち切ることのできない無様な執着心だけがすべてだ。

「愛しとるで、跡部」

 これは、無意味な台詞。そこに意味もなければ、求めてもいけない。
 互いがそう思っていなければならない。それが、この関係を保つ上での条件だ。

「そうかよ」

 そっと近付く顔。触れ合う吐息。
 口付けとは甘いものじゃないのか。この行為は、こんなにも苦いというのに。

(馬鹿だ、)

 それはどちらに対してか。否、俺たち二人のことか。
 自分の感情も、相手の感情も知っている。知っていて、気付かないふりをし続けている。
 そうでなければ、この関係は終わってしまうから。

(本当に、馬鹿だ)

 絡む視線はいつも、睨みながら。
 すぐ傍にある漆黒の瞳に映る自分が、どうしようもなく嫌いだ。

「跡部、」

 囁く声音は無機質だと、そう思い込まなければ何もかもが溢れてしまいそうで怖い。
 怖い、なんて自分が女々しく感じられて眉間に皺が寄る。

「 、」

 目の前の男を見るのも、その瞳に映る自分を見るのも嫌で目を閉じる。
 その瞬間に、奴が泣きそうに目を細めることを知っている。知っていて、知らないふりをする。

(嗚呼、馬鹿だな)

 触れた唇は、やっぱり苦い。苦くて苦くて、どうしようもない。

(なぁ、忍足)

 俺たちは、馬鹿で愚かだな。
 それでも、この関係を断ち切れない。本当に、馬鹿で愚かだ。
 わかっていながら、きっと俺たちは変われずに口付けを交わすのだ。



END.

両想いなのに進展出来ない二人。

12.02.08


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