美しく飾り付けた残酷な世界で


 侑士が死んで、最初の春が来た。
 皆であいつが眠る大阪の墓地に来るのは三度目だった。

 侑士が死んだのは、高校三年に上がる直前だった。
 小さな子供を庇って車に轢かれた。二十メートルも飛ばされて、意識不明で病院に運び込まれたらしい。
 報せを受けた俺たちが行った時には、侑士はもう帰らぬ人になっていた。
 皆、俺も泣いていたなかで、跡部だけが毅然と医者や警察官の話を聞いていた。
 正直、俺には信じられなかった。侑士と跡部は付き合っていて、好きな奴が死んだのに泣くことなく、死んだ時の話なんて聞けるはずがない。
 なんで跡部は平気そうなんだよ、なんで泣かないんだよ。俺にはわからなくて、何故かまた涙が出た。

それから学校での集会とか、大阪の侑士の実家での葬式があって。そして、高校最後の大会を迎えた。
 侑士への手向け、なんて気はなかったけど、あいつのためにもって気持ちで戦った。結果は準優勝だったけど、何となくあいつは笑ってんじゃないかなって思った。
 それからは大学受験に向けて猛勉強。侑士が居なくなったのに、悲しいのは変わらないのに、俺たちは前に進むために明日を見ていた。

 あっという間に月日が流れて、俺たちは高校を卒業した。
 そして、侑士の一回忌。俺たちは大阪の侑士の墓へ行った。
 けど、そこに跡部の姿はなかった。背筋がぞわっと、冷たくなった。
 不意に宍戸の携帯が鳴る。宍戸は慌てて通話ボタンを押した。

「跡部が‥?」

 みるみる顔が青ざめていく宍戸に、誰もが嫌な予感を覚えた。
 そういえば、侑士が死んでから跡部は一度も泣かなかった。そして、笑うこともなかった。テニスの試合中も、表情を変えることすらなかった。

「宍戸?」

 通話を終えた宍戸に誰かが問いかける。ゆっくり振り返った宍戸は、何とも言えない悲しげな顔で告げた。

――跡部が、死んだって‥

 やっぱり。きっと、皆そう思ったんだろう。
 跡部には、侑士がいないこの世界で生きることが耐えられなかったんだ。
 侑士が死んで泣けなかったのは、涙と一緒に侑士の温もりが消えるんじゃないかって怖かったから。笑えなかったのは、侑士が居なくても生きられるって感じるのが嫌だったから。

「侑士も、跡部も‥、お前ら馬鹿だよ‥」

 侑士に、どうして死んだんだ、なんて言えない。
 跡部に、どうして死んだんだ、とも言えない。
 神様が居るなら、どうかあいつらをまた出逢わせてくれ。
 涙が溢れそうになって上を見れば、美しい青空が広がっていた。



END.

岳人視点での忍跡。

04.14 移動


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