真っ暗な世界。前後左右、何もない空間に独り、沖田は立っていた。

―死ぬのか?

 不意に響いた声は、紛れなく己のもの。しかし、そのことに疑問を感じることはない。
 そして、声に答えられない自分は、もしかして死にたがっているのか。自嘲が零れた。

―何故、人を斬る?

 また、声。
 それは、あの人を守るため。あの人の隣に立つため。そう答えようとして、けれど、答えられない。

―人を斬るとは、どんなだ?

 刃を振りかぶり、振り下ろし、皮を肉を斬る。それはあくまで動作であり、答えでないことはわかっている。
 だから、また答えられない。

―お前は、人を斬るのが怖いんだ。

 これまでとは違った、断定的な声。己が発する声に、沖田はようやく己を知った。
 そう、人を斬る時に響く鼓動は、拒絶のそれだった。人を斬る、命を奪うことが、怖かった。
 それでも、己の道と決めて進んできたことに後悔も迷いもない。

「確かに俺ァ、人斬りが怖いんだ」

 それも真実。己の声だ。

「けど、止まるつもりはねぇよ。‥背負ってやらァ、全部」

 奪う命を背負う覚悟。ようやっと受け入れた自分の声。
 煩くなる鼓動を、己のものとして受け止める。

―なら、いきなせェ

 笑いを含んだ声が霞み、遠くで別の声が響く。
 よく透る声。よく知る声。

「‥た、‥ん」

 沖田は、一度笑みを浮かべてから、声の呼ぶ方へと歩き出した。そこが前であり、進む先だ。

「沖田くん!」

 己の名を呼ばれ目を開ければ、そこには眩しい銀色。安堵に目を細めて、そして優しく微笑んだ。
 それがとても綺麗で、思わず沖田も笑む。

「おはよう」

 斬られているというのに、どこかすっきりしたような笑みに、目の前の銀色は笑みを深めて告げる。
 夜も深まってきているというのに、気分はまるで朝日を浴びながら目覚めた時のようだ。

「おはようごぜぇます。旦那」

 知らずに抑え込み、拒絶していた自分を受け入れて再び目覚める。ここからが、始まり。
 己の刃も、いつかこの男のように強く固く、そして優しくなれればいいと。そう願いながら、沖田は怠い体を起き上がらせた。



4. 鼓動


長い。そして、沖田。
銀時、名前出てこなくてごめんね‥
沖田はまだ18歳なんだよなーと思いながら。

2012.01.03

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