(七夕企画)






 〜〜 〜♪〜、 〜♪…


珍しいな、と単純に思っただけなのに、知らず足はそいつの方へ向いていた。
食堂で机に向かって必死に手を動かしているそいつの背後を取る。


「わっ!」
「わっ!」


同じ音の筈なのに、全く違う色を表した二つの声。
恐る恐る振り返る椿に、つい可笑しくなって噴き出した。















「ごめんって椿、なぁ、」
「もう怒ってないです」
「うん、良かった…で、何してたの」


鼻歌なんて珍しいじゃん、と言えば、途端真っ赤になる顔。


「お、俺歌ってました!?」
「うん、さっきの何か聞いたことあるんだよなー」
「うわ…忘れてください!」
「あ、」
「うっ、」


先ほど脅かしたときに駄目にしてしまって丸められた紙を見て思い出した。
そう、あのサイズと日付からして。


「七夕」
「…そうです」


目を伏せて、いかにも観念しましたって風に白状する。
まだ引かない頬の熱を持て余す椿が、かさり、紙を弾いた。
それをひょい、と拾って開こうとしても、珍しいことに慌てる様子がない。


「…なるほどねー」
「何がっスか?」
「や、てっきり何か書いてると思ったのに」


開いたそれは、書き出しの直線がぐにゃり歪んでいるだけで、識字は出来ない。


「監督も書きます?」
「ん?じゃあ書こっかな」
「ちょっと待ってて下さいね」


ファンサの一環でチームみんなで書いてるんスよ、なんて言われたらノらないわけにはいかない。
そう肯定を示すと、椿は食堂の隅の談話スペースのテーブルに置いてあった箱から折り紙とハサミを持ち出して、こちらに戻ってくる。
軽く三等分に折って、ハサミを入れる。
しゃき、しゃき、しゃきんっ。
集中すると少しだけ唇が引き締められて、無言の中、小気味良い音が食堂に響く。
拗ねたように小さく突き出される唇にキスしたいな、なんて思った。


「はい、…監督?」
「おぅ、サンキュー」


邪な考えは余所へ追いやって縦長になった紙を受け取る。
何書こっかな、とちらり正面の椿を盗み見ると、ペンを口元に当てて思考に溺れている。
だから、お前、口。
どうやら先ほどの癖は考え事をするときでも発揮されるらしい。
こいつ無意識だから困んだよなー…


「あ、うし!」


カリカリとペンを走らせる、椿はまだ唇を少しだけ突き出してうんうん考え中。


「つーばきくん」
「……あ、はい?」
「出来た」
「却下」


椿にしては珍しいハイスペックな切り返しに驚きつつも、ブーイングは忘れない。
ぺら、椿に向けられた紙切れには『椿とキスしたい 監督』ときちんと人物も明確にしてあんのに、いや、そこじゃねぇか。


「この願い叶えられんのお前だけなのにーけちー」
「折角の七夕なんですから俺じゃなくって織姫と彦星に頼んでください」


ぴしゃりと言い放つ椿は、また思考に潜り込む。
こいつのこういう、行事とか何でもに真っ直ぐなところ、いちいち好感持てて困る。
惚れた弱み?いやいやそんな。


「んー…うぅ、」


さっきの鼻歌といい、気づかず口からいろいろ漏れるタイプか。
相当に悩んでるのか、眉間に皺が寄ってしまっている。


「椿、悩んでるとこ悪いけどさ」
「う、はい」
「お前考えることのスケール小さそうだよな」
「何で監督までそんなこと言うんスか…」


あ、明らかしょげた。
までってことは…黒田…いや、赤崎辺りに言われたんだろうな。


「だって七夕っつったって紙に願い事書くだけじゃんかよ」
「そうなんですけど、どうせなら叶えたいじゃないですか」


そうしたら俺直したいとこいっぱいあって、でもフィールドでの課題はもう自覚してるから書けなくって…ごにょごにょと尻すぼみになりながら伝えられた言葉にホントに真面目だなって感心する。
フィールドの課題以外で、直さなきゃいけないとこ、ねぇ。


「俺相手にガチガチにならない、とか?」
「それ、は…善処してます」
「んー、そろそろ下の名前で呼ぶのに慣れる、部屋に来るの遠慮しない」
「…かんとく、」
「ん?」


怒ったかな、と立ち上がった椿を見ようと首を起こすと、ちゅっと軽いリップ音が鳴った。
うん、してやられた、チクショウ。


「さっきから、紙に描ける内容じゃあないじゃないっスか」
「あ、そっか、吊るすのかコレ」
「そうですよ」


とりあえず、と椿が席に着き直してペンを持つ。
カリカリと少しの間、机との接触音が響いて、止まる。


「じゃあ俺はこれで」
「どーゆう意味にとろっか、椿」
「好きにしてください」


フィールドの課題は書かないと言った椿だから、多分、俺の思う意味が正解。
俺、今でもいっぱいいっぱいなのにな、案外。
ま、勝負事となると話は変わる、かなり燃えちゃうし、俺。
ぴら、とこちらに向けられた挑戦状を持つ手を引いて、受けて立とうと仕返しに唇を寄せた。


「―ッ、」
「とりあえず今回は俺の勝ちね」


手を引いた勢いで宙に放たれた赤色が鮮明に揺れる、その紙にはただ一言。


『勝ちます』






(二人が天の川で愛を叫びあってる間)
(地上では試合開始のホイッスルが鳴る)





当日クラブハウスの笹に『負けません』と書かれた赤色の短冊が掛かっていたのが見られたとか。





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食堂ですよ二人とも^p^←
素敵な企画に参加させていただき、本当にありがとうございます!





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