眠れない。なんて、そんな日常を気にしたこともなかった。ああ、不眠症か。それぐらいの認識だった。面倒だが人間に与えられた時間は24時間しかない。その24時間に人間は振り回され生きていかなければならない。食事をし眠ることが必要な人間がほとんどだろう。俺もそんなちっぽけな人間の一人に代わりは無いが、寝られない日が続けば意外とその間は普通なもので、頭痛や吐き気など目立った体調の不良はきたさない。少しだけ人間の上に立っているようで気分がいいと感じたのが随分前のことだった。最近はもうそれすらどうでもいい。

「船長、そろそろ寝ないとほんと、身体おかしくなるッスよ」

 シャチが水代わりの酒とフルーツの乗った皿を俺に差し出しそう言った。俺は読んでいた本から視線をシャチに向け、よく分かったなと言うと何年あんたといると思ってんだと呆れた少し怒気を含ませた声で言われた。
 違いねえ、と、へへっと笑うと笑えねーしと酒を差し出された。それを素直に受け取り飲み干すと咽喉を水分が通るのが久しぶりな気がした。人間に近付いている。あと少しで睡魔に襲われるなと思って少しだけ面倒になってきた。

「シャチ…気にすることはねえ、あと少しで人間に戻りそうだ」
「あんたはすでに人間スよ、あ、能力者か……えーっと、そういやあクマが言ってましたけど、次の島には麦わらもいるみたいですよ」

 食べようとしたフルーツを置いてシャチを睨み付けた。

「お前ら、なんか企んでんな」
「ええ〜だってー、船長眠れないっていうから…連絡しちった」

 ペンギンがヤったら疲れて寝るって言ってたし。身も蓋もない話に頭が痛くなってきた。きっと、麦わらの双璧も黙っちゃいないだろう。面倒なことになりそうだ。

「シャチ…俺は寝る。ついたら起こせ」
「お、あいよー船長。きっと麦わらが起こしにくるから、それまでいー夢見て下さいね」

 寝ても覚めても悪夢が待っていやしないかと思いながらも、あの陽だまりのような笑顔が見られるなら悪夢にも耐えられそうだなと本気で思ったから、笑えなかった。


(130421)
真面目な話を書こうとして馬鹿な話になった

壱汰


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -