(現代)

 人は見た目で判断しちゃ駄目だと教えてくれたのはサボだった。
 人は見た目で判断するのが常識だと教えてくれたのはエースだった。
 そんな兄二人に育てられて歪むことなく素直に育ったと思われる俺は、やはり優しい甘々の兄の方の話を鵜呑みにし楽しく生きてきた。

「だから言っただろ!人は性格が顔に滲み出るって!」
 あいつの顔を見たか、悪人面だと言っただろ。あれがモテるとか世の中どうかしてる。
 わーわーと騒ぎ立てる兄、エースがうっとおしくて俺はエースに向かってティッシュの箱を投げつけた。身軽に避けたエースがズカズカと此方にくる前に、もう一人の兄、サボがソファに座り俺の肩を優しく抱いてきた。

「喧嘩したんだって?ルフィ」
「…ん」

 サボの肩に頭を預けてグリグリと擦りつけると笑ってよしよしと頭を撫でてくれる。サボに身を委ねて閉じていた瞼をあげると目の前にエースの顔があって普通にグーで殴り飛ばした。

「いってえええ!」
「エースが目の前にいるからだろっ」

サボに抱き着きそういうと、目尻に涙をため眉と目を釣り上げたエースがドスンと俺の隣に腰掛けてきた。エースの手が腰に回されくすぐったくてうひゃうひゃと笑う。

「なあ、で、どーなんだ、トラなんちゃらは」
「エース、トラファルガーだよ」
「うるせーなサボは。いーんだよトラでもファルガーでも」

 なんだよそれ。と、サボが隣で笑う。俺はというと笑うに笑えない心情で、膝を抱えて自分の足の先をジッと見つめていた。

「あー、なんだ…ルフィ。喧嘩の原因…聞いてやるから機嫌直せよ」
「機嫌…悪くない」
「眉間に皺よってっぞー、な、ルフィ、話聞いたらさうまい飯作ってやるからさ」

 話した方がもっと美味く感じると思うぞ。と、サボが言うので今日の出来事を話そうと口を開くと玄関がやたら騒がしい事に気がつく。

「……いた」

 少しだけ息を切らせて呆れたように額に手をあてて、俺の喧嘩の相手がズカズカと部屋に入ってきた。口元に手をかざす。

「ふほーしんにゅー」

 ぼそりと呟くと、ピクリと片眉が上がりこめかみに筋が刻まれた。怒ってること丸わかりだ。

「っ…麦わら屋、ここは誰の家だ」
「…おれのいえ」
「お前とお前の兄貴の家は隣だ」

 あれ?そうだっけ?とエースとサボが顔を見合わせる。勿論おふざけだ。それがローの怒りを増長させると分かっているからやめられないと言っていた。

「トラ男がまた女といちゃついてたんだ」
「トラファルガーくん、うちのルフィとは別れてもらう異論は無いな、さて、うちに帰ろーぜ今日は寿司にしよう」
「今日はシチューって言っただろ昨日」

 俺を挟んで兄二人が話を進める。俺はというとジトリとドアに持たれた男を見つめることに徹していた。漸く動き出したそいつはグイッと俺の手を引っ張って胸に俺の頭を押し付けた。

「モネは大学の研究仲間だって何回言えば覚えるんだこの鳥頭は…つーか楽しんでんだろ」
「……ふふふ、」
「俺が来たあたりから機嫌直ってんだろばーか、口元隠してもわかる」

 笑いが込み上げてきてローの服を掴んでふふふふと肩を揺らして笑う。気持ち悪いと頭を叩かれて恨めしそうに見上げるとローが顎でしゃくる。目を向けるとにこにこと笑うサボと面白くないと煙草に火をつけたエースがいた。

「また惚気聞かされんのかよ」
「さっきまでほんとに怒ってたんだ!」
「まあまあ、さあて、夕飯作るけど、トラファルガーも来なよ」
「ああ」
「当てられねーうちに帰ろ」

 玄関に向かう兄二人の後ろ姿を見つめていると、エースがくるりと振り向いてローに煙草を向ける。

「エッチなことしやがったらぶっ飛ばすからなトラファルガー」
「…」

 エースはバタンとドアを閉めて行ってしまった。

「夫の不倫に振り回される妻の心境ごっこだ」
「……オレンジ女か」

 ローに抱きつくと薬品の匂いがしてくさかった。それでも顔を擦り付ける。ローは腰に手を回して抱き締めてくれた。

「お前なあ、なんかあったら俺ん家きてしかも兄貴よぶんじゃねーよ」
「だって、トラ男が最近家帰ってこないし、大学のぞいたら女と笑ってたし…」

 研究が大詰めだったんだとローから聞いていた。聞いていたが納得は出来なかった。納得せざる負えないのだけれど。それを友人のナミに話すと不倫じゃないかと騒がれたのだ。動かずにはいられなかった。

「笑ってない。…つーか、不倫って意味分かってるかよ、浮気のがまだしっくりくる」
「しっくりってなんだ!お前認めるのか!」
「ギャーギャー騒ぐな、つーか不倫浮気ってのはこーいうことしたら騒いでほしいぜ」

 ローはそう言ってニヤリと口端をあげて俺の腰をグッと引き寄せ、カプリと食む様なキスをしてきた。口腔に舌が侵入してきて逃げようとするも、後頭部を押され意図も簡単に舌を絡められる。口腔で何度か吸われ離れる時に舌を甘噛みされて漸く解放された時には腰が立たなくてローにもたれていた。

「なれろよ」
「ううう…」

 ローはくつくつと喉の奥で笑って俺の頭を撫でた。

「煙草吸ったろ」
「……ストレス解消だ」

 少ししか吸ってない。と、ローは言うけれど、口腔に残るメンソールの味は頻繁に吸った証拠。普段は吸わない。俺はしししと笑ってローを見上げた。

「俺に会えなくて寂しかった?」
「……」

 罰が悪そうに視線を彷徨わせてから顎の髭を触る。ローの癖だ。可愛い奴。

「ご飯食べたら、エッチなことしよーな」

 満面の笑みでそう言ってやると、動揺すると思ってたのにニヤリと嫌な笑みを向けられて覚悟しろよと言われてしまった。やっぱり可愛くない。



可愛げの無い隣人の話



(130404)
現パロ。
兄ちゃんズを出したかっただけ。
医大生ローさん。もちろん兄ちゃんズより年上。なのにあの仕打ち。


壱汰

 

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