空中庭園〜SCEPX・序章〜
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 ともあれ、ファンドルの取引現場を押さえれば、残党の首根っこを押さえてやれる確率は高いだろう。縦しんば首根っこでなくとも、多少は情報が聞き出せる。
 エマヌエルの、少女めいて整った容貌に、獰猛な笑みが浮かぶ。
「ウィル! 競売の招待状、都合できるか」
「関係者以外は立ち入り禁止だぜ?」
 ニヤリと強かな笑みで返されて、エマヌエルはげんなりとした表情を隠せない。
「……結局勧誘目的かよ」
「人聞き悪いな。世の中ギヴアンドテイクだって教えてやってンだよ。見返りなしで自分が美味しい思いすんのは間違ってると思わねーか」
 ふん、と鼻を鳴らすとエマヌエルは踵を返した。
「判った。情報だけ貰っとく」
「おー。強制排除されても文句言うなよ」
「そっちこそ」
 顔だけこちらへ向けたエマヌエルの口元が、不遜な笑みを刻んだ。
「先に犯人皆殺しにされても文句言うなよ」
 やや乱暴に閉じられた扉を溜息と共に見つめたウィルヘルムは、エマヌエルが去った後の部屋に重大なものがなくなっている事に気付いた。

「……やられた」

 誰に言うともなしに吐き出して、机の上に突っ伏す。


 先刻、彼に見せてやった資料をそのまま持っていかれたのだ。
 競売が行われる場所も、かなり詳細に載った資料。勿論エマヌエルに見せたのは原本ではなくコピーだが、重要なのはそこではない。

 ハンター職をこなすとは言え、彼は正式には無免だし警察関係者でもない。言わば一般人に内部書類を見せた挙げ句持ち逃げされたなんて上に知れた日には良くて始末書、悪くて減俸、最悪始末書プラス解雇である。
 しかし、上に知れる事は恐らくないだろう。そんなヘマをやらかす程自分は間抜けではないつもりだし、エマヌエルの方も情報を自分から貰ったなどとはよほどの事がない限り言い触らさない。言い触らすような人間が周りにいないからだ。彼の付き合いの悪さに感謝しつつ、ウィルヘルムも通常業務に戻るべく立ち上がる。

 とは言え、捕り物現場での波乱は避けられないような気もしたが。


(……ま、直には関係ねーしな)


 他人事のように脳裏に呟いて、ウィルヘルムは一つ伸びをする。
 後に火の粉が飛んでくる事になるという厄介な未来を、勿論この時のウィルヘルムは知る由もなかった。





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