雪の女王 [5/7] 障壁に鵺の強靭な爪が阻まれて止まる。 「燃ゆる炎、さながら業火の如く」 鵺の動きが止まった瞬間を狙い、凛の術が炸裂する。が、しかし、炎が鵺に届くより速く、鵺の巨体が後方に浮く。炎は鵺のいた場所を焦がしただけで、完全に鵺に避けられてしまった。 「意外と速いな……」 追撃を掛けるべく一歩踏み出した。しかし、凛の術で生じた煙の向こうに鵺の姿を捉える事ができない 「秋!」 凛の切羽詰まったような声を秋都が認識したのと同時に、自分に降り注いでいた太陽の光が何かに阻まれる。見上げた先にいたのは勝利を確信した鵺の姿。その瞳に己の失態を悔やむ秋都が映り込んでいる。 やられたと、秋都が覚悟を決めたその時、その場にいた誰もが予想していなかったことが起こった。鵺の巨体が後方に吹き飛んで行く。 驚く秋都の前に、見知った姿が舞い降りる。三本の尾をもつ純白の大きな犬の姿をした妖怪。 『やれやれ、その子は私の物だから、お前にはやれないよ』 「ユキ!」 『リン、貴様がついていながらなんてことだ』 「すまないね、女王」 『雪の女王』と呼ばれ、千年の時を生きる大妖であるユキは、今は秋都の手伝いをしてくれる妖怪だ。普段は黒い子犬の姿をしており、秋都の唯一の同居者でもある。 「ユキ」 『アキ、ちゃんと仕留めるんだよ』 体制を立て直し怒りの咆哮を上げる鵺に向けて、秋都は再び刀を構えた。 戻 [*prev] | [next#] |