雪の女王
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目的地の廃寺が近づくにつれ、肌を刺すような禍々しい気配が周囲に漂い始めた。この状況に長いこと常人が置かれれば命に関わる。それほど陰鬱な雰囲気が周囲を包んでいる。

「これは酷いな」
「こんなになってるなんて……」
「だから言っただろ、探検しとけって」

凛の言葉に秋都は返す言葉もない。危険な場所を確認しておけよという意図があったのだ。ふざけているようでいて、凛は影で努力を惜しまない。

「ほれ、しみったれた顔すんな。おにいさんはお前よりも経験豊富なだけなんだしな」
「そーですね」

どんな時でも余裕を無くさない。それが凛の強みなのだ。もっと強くならなければと雪白を握りしめた秋都は、嫌な気配を感じて足を止めた。隣に並んだ凛も険しい表情で周囲を警戒している。
廃寺は目と鼻の先だが、障気の中心はここだ。

「吹き抜ける風、さながら刃のごとく」

凛の言魂に応じる様に、手のひらに集まった風が、刃に姿を変える。風の刃が前方にある木々を切り倒すと、住処を荒らされた妖怪が、凛の術を打ち払い飛びだしてきた。
その姿は、猿の頭に狸の胴。虎の四肢な蛇の尾。

「鵺か。そこそこ大物だぜ。おい、『彼女』は?」
「まだ寝ていましたよ」
「仕方ない。俺らだけで片付ける。潰されんなよ」
「援護お願いします」

体制を低くし鵺に向かって間合いを詰める。鵺の真紅の瞳は秋都を標的と定めたらしく、自分に向かってくる不遜な相手目がけてその屈強な足を振り上げる。それを確認し秋都は刀の剣先を水平より少し下げた構えで立ち止まった。

「土の構え、鉄壁の障壁『ぎょくせつ』」

剣先から鵺と秋都の間に悪しき者を寄せ付けない霊力の壁が生じる。





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