Review
2:エゴイスト


著者:荏藤いもり様
HP or 作品直通:L.T.S.
ジャンル:大正ピカレスク


 大正にピカレスクという私の趣味のドツボに嵌まるジャンルでして、読む前から勝手にわくわくしてました!

 堅過ぎず、尚且つ崩し過ぎていない文体が物語の雰囲気に良く合っていて読み易かったです。
 そして、文章の所々に散りばめられているどこか懐かしさを催す単語が良い味を出しています。

 物語だけでなく、その裏に香る和洋折衷の絶妙な色合いも楽しめました。
 また、物語も三十頁という短さでありながらただ単純にストーリーをなぞるだけでは済まさないところが非常に好みです。

 中身が濃密でありながらもさっくりと頂ける、そんな印象を受けました。

 少々気になったのが一頁目の冒頭、男が帰宅しているシーンです。
 確か三頁目に季節が夏であることがはっきり記されておりますが、夏に急ぎ足で帰るならば汗もかくと思います。そんな感じの描写が見受けられなかったため、最初読んだ際にいまいちイメージが湧きませんでした。
 あと、男の服装にも大して触れられていなかったせいかこれもまた想像しにくく、一瞬だけ「ん?」と読むのを立ち止まってしまいました。はい。

 それと、三頁目に一回登場した仲居さんですが、十二頁目になるまで女性と分かりませんでした。
 『「また、錦木様が〜」』の次の文章にさりげなく、『そして彼女は忙しそうに〜』と混ぜ込むのもありかなと私は思います。

 ただ私が見落としているだけかもしれませんが、話の途中で語られていた『罠』を色々考えると少々疑問が残ります。
 罠イコール人魚ならば作中の流れで納得出来ますが、もし犯人がもう一方の転売目的の人間だったら何が罠になっているのか、宙ぶらりんのまま放置されている気がしました。
 錦木さんが転売目的の人間の仕業という選択肢を物語の終盤(保坂さんが女に襲われる)まで捨て切れていないような印象を受けたので、そんな風に感じてしまったのかなと思います。

 ここからはもう好みの問題だと思うので(上記でも充分に好みを言ってますが)、独り言と思って下さい。

 まず二頁目ラストの文、『〜詰まった眼球。』のような体言止めよりも『〜詰まった眼球。』まで書いた方がどちらかといえば文章の流れも綺麗ですし私好みです。あくまでも私の感覚です。

 十一頁目の『吐息する』ですが、吐息に動詞を付けるのは少し違和感を感じました。

 それと錦木さんが女と対峙する時ですが、保坂さんが若干緊張感や緊迫感に欠けているような気がしました。

 あと錦木さんが語っている間、もう少し動作が欲しかったです。錦木さん自身もそうですが、聞き役である保坂さんの表情の微妙な変化等々あれば良いなと思いました。

 保坂さんが読者が抱くであろう疑問を代辯して下さり、突拍子もない錦木さんの言動や展開に唖然とすることなく安心して読み進めることが出来ました。

 利己心をテーマに物語が綴られる一方でしっかりと組み上げられた謎も解かれる。読み方によっては二重にも三重にも楽しめる作品です。

 善人だけが全てではない、裏も表もある人間性をそこはかとなく示唆する内容に考えされられました。

 余談ですが、反人間的でありながら、もしかしたら物語上で一番人間味があるかもしれない錦木さんが登場人物の中で一番好きです(笑)

 以上になります。ここまでご拝読頂き有難うございました!

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