感情を綴る恋愛小説ではあまり見掛けない気がする三人称の物語ですが、三人称の利点を存分に活かしているように感じた作品でした。 くどくどしい言い回しがなく、心地好く読み進めることが出来て、ゆったりとした時間の流れや雰囲気が非常に好みです。 特に印象深いのが冬に関連する描写で、文章を読んだだけで五感が刺激される感覚はとても楽しかったですし、勉強になりました。 些細な表現の違い等にかなり気を遣って書いていたのではと思います。 描写関連で気になったのが、登場人物に関する具体的な描写がなかったように感じた点です。 大雑把なイメージは明確に区別された言動から把握出来たのですが、髪の色や長さ、服装の身につけ方や癖等々、登場人物達の『らしさ』がほんの少しでも書いてあれば印象が違ってくると思います。 ご依頼される際に仰っていた『足りない』点ですが、読んでいるうちに気になったところ(プラスして欲しいところ)がありましたのでいくつか述べさせて頂きます。宜しければご参考下さい。 まず、第一話と第二話の時系列です。 第一話で紫織さん達が何歳なのか、外見に関する描写や年齢に関する文が見当たらなかったため、第二話に入った時に違和感を覚えました。上述と同じ内容になってしまいますが、登場人物に関連する描写が少し欲しいと思いました。 また、これも時系列の話なのですが、第三話と第四話のことです。 宏樹さんが電話を切った後、彼は外に出ていますが、その間のことが書かれていなかったためか少し分かりにくかったです。ワンクッション言葉を置いてから、宏樹さんの動作を記述すれば違和感が解消されそうだなと感じました。 次いで文章関連ですが、P46で誤字がありました。あと、P140の『瞑目したまま〜…』の『瞑目』は誤用だと思います。 中〜終盤に脱字があったと思うのですが、ページをメモするのを忘れてまして……既に修正されていましたらすみません。 読後感ですが、クリームや飾りを乗せていないスポンジケーキを食べたような気分になりました。 充分に美味しいのですが、仕上げ次第ではまだまだ美味しくなりそうな小説です。 欲を言えば、折角名前が出ている千夜子さんをもうちょっと登場させたりとか、印象付けたいワンシーンをねちこい感じに書いてあったりしたらいいなと思いました。 例えば、第三話の終わりで宏樹さんに溜息をつかせて侘しさを表現したり等です。 あと、涼香さん達の行く末がもう少し描写してあったら、一本の物語として腑に落ちたような気がします。 愛着が持てる可愛い登場人物ばかりで尚且つ物語が収まるべきところに落ち着いた、安心して読める作品です。 掴みどころがないようであるような宏樹さんが大好きです(笑) 以上になります。ここまでご拝読頂き有難うございました! |