七つの大罪 | ナノ





僕がみんなを殺した、勿体ぶって彼が口にしたのはそんな言葉だった。
「ね、こんな時に冗談はやめてちょうだい...!」
彼女は怒ったようにそう返した。
「冗談じゃあないよ。」
そう言って彼が一歩前に出る。
月明かりは恐ろしく美しい彼の顔と、てらてらとした赤黒い液体が付着してる右手を、照らし出した。
彼はその手で月を掴むかのように、伸ばす。
粘りのある血液は、乾きかかっていて、ぱらぱらと赤い雪が降るように地に落ちた。

あのあかいのはなに?
ち、けつえき、いったいだれの?
うそ。うそよ。だって、だって。
ああ、そうだわ。
みんなは?とうさまとかあさまは?
なんで、なんで、なんで。

鈍器で殴られたような衝撃。
目眩が彼女を襲う。
身の毛もよだつ戦慄。
彼女の唇が震えて、歯がカチカチと音を立てる。
呼吸が浅くなって、激しくなる。

「どうして、何故、こんなことを。貴方は村人や子供達と仲良くやっていたでしょう?...私たち愛し合っていたでしょう?」
縋るように彼女は声を紡ぐ。
彼女は彼が否定すること望んでいた。
やっぱり冗談だよ、手の込んだ嘘だよ、と言って欲しかった。
「...愛し合っていた?本当に、反吐が出る。君は幸せ者だよ。リリイ。」
深い闇のどん底に突き落とされたように、目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。


彼の手が、彼女の黄金の髪に伸びる。
「嫌ッ!」
触れられる、そう思った時、反射的にその手を叩いていた。
彼の顔が憎悪に燃える。
「あ、あぁ...ごめんなさい。」
その只ならぬ様子に彼女は謝罪を繰り返した。


「謝って許されることじゃ、ないんだ。」
そう言って、彼は彼女の細く白い首筋を、両手で締め上げた。

「かっ...はぁっ...は...なん、で...」
圧迫された喉。息が出来ない。
彼の手を外そうともがくが、全く意味をなさなかった。
「君には分からないだろう!今、僕は最高に幸せなんだ!夢にまで見ていた!やっと、やっとだ!全てが終わるんだ!みんな殺した!あとはお前だけだ!」
彼は子供のような無邪気な眼差しを彼女に向ける。
その目は血走り、狂気を孕んでいた。
「め...や...めて...エッ」
「やめないよ。お前はこのまま死ぬ。知らないということは罪なものだね?箱入り娘ちゃん。」
彼の愉悦が漏れて、唇が歪んだ。
首を絞める手は更に強さを増す。
遠退く意識の中、母の言葉を思い出した。


『リリイ、よくお聞きなさい。
自分の身は自分で守らなければなりません。』

ああ、母さま。そうだわ。そうよ。


朦朧とした意識の中、短剣に手を伸ばす。
裾を捲り上げて冷たい柄に触れた。

「君も、君の両親も、こんなところで殺されるなんて思ってもみなかっただろうね?長年の夢だった。やっと果たされるんだよ!」
興奮して饒舌る彼はまるで人が変わったかのようだった。

彼はまだ気づいていない。
そっと、鞘から刀身を抜き出す。
慎重に、取り落とさぬように。


そして、彼の腹に、それを突き立てた。





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