七つの大罪 | ナノ





暗い森を斬るようにして二人は駆けた。
湿った土や若葉の青い匂い、独特の樹皮の香りを浅く吸い込んで吐き出す。
密集した木々は風を受けて、嘆くように騒めいている。
月明かりが枝葉の間からひっそりと僅かに漏れ、辛うじて足元が見える程度だった。
森が泣いている、と彼女は思った。
太い木の根が地を複雑に這い、それに彼女は躓きそうになる。
「転ばないように気をつけて!」
彼が振り返って注意を促す。そして走る速さを緩めた。
彼女は息が切れて苦しそうに喘いだが、休憩することは許されない。
彼の手をしっかりと握り、自身を叱咤するように足を動かし続けた。


暫くすると、開けた場所に出た。
息も絶え絶えに、膝に手をついて呼吸を整える。
もう動けない、と彼女は心の中で弱音を吐いた。
喉が焼付くように熱かった。
足が悲鳴を上げていた。

まだ呼吸が乱れていたが、ゆっくり顔を上げると、目前の美しい光景に目を奪われた。
疲れきっていたはずなのに、自然と足が一歩前に出る。
まず目に入ったのは、浮かぶ金色の大きな満月と、それを取り巻くように瞬く無数の星々だった。雲一つない濃紺の星空だ。

そして、崖下に広がっている、大海原。
あの夢にまで見た海。
深い藍色に染まる海は月光を照り返し穏やかにうねっている。
沈みかかった満月が海波の中にちゃぽんと音を立てて落っこちそうだった。
そのすぐ真下、映しだされた金色の球の幻影が波の上を滑るように揺らいで、その輪郭を乱す。
独特だが、心地の良い匂い。
崖にぶつかり、崩れる波の音が余韻を残しながら辺りに響く。
彼女はほうっと息をついた。

なんて綺麗なの...。
彼が言ってた崖から見える海は、ここだったのね。

しかし、感傷に浸る暇などなかった。

「そうだわ!みんなは一体何処に!?」
振り返って背後の彼を見る。
森の出口に佇む彼の表情は、闇に塗り潰されて見えなかった。
彼が答えることはない。
ただ彼女を見据えている。
「アラン...?」
彼は彼女のあの満月と同じ金色に輝く髪に触れる。
「しかし、美しい髪だ。」
思ってもみない言葉に、彼女はたじろいだ。
「本当に、君は幸せ者だよ。」
彼は子供をあやすような手つきで、彼女の髪を梳きながら、そう続けた。
「何を、言っているの...?みんなは何処?」
「...まだ気づかないのか。とんだ鈍感娘だ。呆れるね。」
やれやれ、という風に彼は肩を竦めた。
「一体、どういう、こと?」
「...僕が村の人達を殺したんだよ。一人残らずね。勿論、君の両親も。」




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