七つの大罪 | ナノ





全てが眠る真夜中。
静寂を引き裂いて、地鳴りのような、獣の恐ろしい唸り声のような音が響き、村全体を包んだ。
それは次第に大きくなり、何かが崩れ落ちるような鳴動へと変わる。
彼女はその異常な轟音に飛び起きた。
その勢いに、古いベットのスプリングが激しく軋む。
哮り立つ馬の鳴き声が微かに聞こえた。
窓からちらちらと赤い光が漏れている。

一体何なの。こんな夜中に。

うんざりとした彼女は寝惚け目を擦り、窓の外を確認する。
その刹那、彼女は放心し、目を剥いた。
信じがたい光景だった。
夢だと思いたかったが、それは現実だった。
ぱちぱちと何か爆ぜるような耳に纏わりつく。

うそ、でしょう...。

村が、燃えていた。
天高くそびえる真っ赤な火柱ともうもうと立ち上がり黒い煙が、家々を踊るように取り囲む。
そして風に煽られて、次第に広がってゆく。
背中に嫌な汗が伝い、指先が震えた。

はっと我に返り、慌ててホルスターを掴んで、腿に巻きつける。
焦れば焦るほど手が震え、言うことを聞かなかった。
ようやく装着し、枕元に置かれた白く淡い光を帯びる短剣に目を向ける。
それを引っ掴んだが、カランと澄んだ音を立てて手から滑り落ちた。
苛立った彼女はそれを乱暴に拾い上げて、ホルスターに短剣を勢いよく差し込む。
そして縺れた髪を振り乱し、寝間着のまま、部屋を飛び出した。


「父さま!母さま!」
叫びながら暗い廊下を必死に走り、階段を駆け降りる。
「ねえ、返事をして!」
返ってこない返事が、彼女をより一層不安にさせた。
「いないの!?」
躓きそうになりながらも、声を張り上げた。
喉が張り裂けそうだった。
そして、はたと気づいた。
恐らく両親は村長の所にいる、と。


「リリイ!」
勢い良く開いた戸、彼女の名を呼び、飛び込んで来たのは彼だった。
走って来たのだろう。息が切れている。
彼の姿を目にした瞬間、涙が込み上げ、溢れそうになった。
「アラン!」
「早く逃げよう!」
「父さまと母さまが...!」
「大丈夫だ!もう皆んな避難している!君の両親もだ!君を連れてくる、とさっき伝えてきた!森に火が移れば終わりだ!さぁ、早く!」
そう彼はそう捲したてると、彼女の手を引いて走った。

二人は村を駆ける。
蠢く炎はまるで悪魔のようだった。
木造の家はよく燃えた。
何軒かは既に赤い悪魔によって、轟々と音を立てて崩れかかっている。
その音と共に、あの穏やかな日常も崩れ去るように思えた。
焼け焦げる酷い臭いと熱気が彼女を襲う。
息を吸い込みたびに煙が喉に滑り込み、嫌に纏わりついた。
彼女は思わず咳込んだ。息が苦しい。
それを少しでも和らげようと、寝間着の裾で口元を押さえた。


彼女の唯一の希望。
それは彼女を握る、決して離されることのないその手の感触だけだった。




- 8 -


[] | []

back




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -