七つの大罪 | ナノ





井戸に水を汲みに行った、月が明るい夜のことだった。ぽっかりと浮かぶ月は青白い光を放ち、全てを照らす。
月を囲むように星たちが煌めいていた。
春になったとはいえ、まだ肌寒い。
夜になると花弁を閉じる花々も、寒さ故に身を閉じているようだった。

それは家に隣接しているので、汲みに"行く"というほど大層なことではない。
井戸を覗き込むと、底は闇に沈み、黒々としていて、彼女を誘うようだった。
もしこのまま真っ逆さまに落ちたらどうなるだろう、と彼女は考えて身をぶるりと震わせた。
早く終わらせてしまおうと彼女は力一杯、井綱を引いた。


水を汲み終えて顔を上げると、遠くに人影が見えた。
目を凝らすと、彼だった。
見間違いではないか、と目を瞬かせる。
しかし、月明かりに照らされ、ぼんやりと浮かぶあの背中はやはり彼だった。
静かに眠る暗い森へ吸い込まれるように彼は消えた。

こんな時間にどうしたのだろう。

疑問を感じだが、彼は旅人だし、一人で物想いに耽りたいときもあるだろうと合点し、家へ入った。


次の日、彼女は彼にこのことを話した。

「ねえ、アラン。昨日の夜、森へ入った?私、あなたを見かけたの。」
「ああ。森へ行ったよ。あの先に海の見える崖があったんだね。そこで星と海を眺めていたのさ。」
「うみ?」
「...まさか、知らないのかい?森を西に進んだところに崖があるんだ。そこから海が見える。」
「そんなの、知らないわ。だって、西の森には恐ろしい山賊や動物出るって散々聞かされているのよ。」

海。あの本で読んだ海。彼が話していた、海。
初耳だった。どうして父と母は黙っていたのだろう。こんなにも近かったなんて、思いもしなかった。

沸々と湧き上がる疑問が彼女を取り巻いていく。
「森のせいで潮の匂いが掻き消されていたんだ。気づかないのも無理はないよ。」
彼は彼女の黙りこくる様子を見て、なだめるように言った。
それでも、彼女には無意味だった。
「...じゃ、今度一緒に星を見に行かないか?」
彼の提案に、彼女は身を硬直させる。
「それは駄目よ。駄目。いけないわ。森の奥には入ってはいけないって言われているもの。」
「...そうか。残念だ。」
彼は肩を竦めた。

本当は行きたかった。
しかし、両親に何と言われるかを考えて、断るしかなかったのだ。
両親は彼のことを快く思っていない。
決して口には出さないけれど、それだけは分かった。

「ごめんなさい。」
申し訳なさそうに彼女が声を絞り出すと、君が謝ることじゃないよ、と彼は笑った。





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