耽溺




今、何時だろう。


カーテンから漏れる光によって部屋は明るく満たされていた。
白い天井をぼんやりとした頭で眺める。
二人で住み始めた真新しいマンションの一室、その天井にはシミひとつ見当たらなかった。
次第に頭が覚醒してきた。伸びをする。
さらさらとしたシルクのシーツの上を足が滑る。
その感覚と、ぐっと伸ばすとつりそうでつらないふくらはぎにちっぽけな快楽を覚えた。

目一杯広げた脚に、何かが触れた。
柔らかい感触。
あ、やってしまった。つい、忘れていた。
隣に寝る彼女を盗み見る。
規則正しい寝息が聞こえた。
まだ、起きていないようだ。良かった。
ほっと安堵する。


彼女の白い首筋には、昨晩、私の残した跡が生々しく主張していた。
ああ、怒られちゃうかな。きっと。

長い睫毛が細やかに震えている。
ふっくらと膨らむ柔らかそうな薔薇色の唇は、まるで私を誘うかのようだった。
その妖艶な様子に、息を飲んだ。

触れるだけ、触れるだけなら大丈夫よね。

根拠もないのに、自身に言い聞かせるようにして、欲求を満たすための理由をこじ付けた。
愛しい彼女の頬をそっと撫でる。
そして、蝶が蜜を求めて花にとまるように、その唇に触れるだけのキスをした。

名残惜しいけど、そっと唇を離す。
すると突然、頭を押さえつけられた。
驚き動揺して、離れようとするも、無駄だ。

熱いぬるりとしたものが口内に侵入し、弄ぶように掻き回す。
激しいそれに、頭がくらくらした。
吐息が甘い声と混ざり合って漏れる。
酸素不足で、まるで溺れているような錯覚を覚える。
いや、実際、溺れているのだ。彼女という存在に。
そして、きっと彼女も溺れている。


やっと離された唇に、どちらのものかも分からない唾液が、銀の糸のように両者の唇を結んでふつりと切れた。

「起きていたのね。」
「ええ。」
「...いつから?」
「貴女が私の足を蹴ったときに。」
「何よ。最初から起きてたのね。」
「まさか、無防備に寝ている恋人に発情して、手を出すなんてね?」
「...反論する言葉もありません。」
「ふふっ。でも、私も思わずキスしちゃったから、人のこと言えないわね。」
全くその通りだ。
二人で笑った。


「ねぇ、もう一回、する?」
挑発的な熱っぽい瞳に目が離せない。
断る理由なんて、勿論なかった。


さあ、溺れましょう。私と貴女。二人一緒に。



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