なんだかんだ言いながら、彼女は朝食をいっしょに食べる約束を守ってくれている。当たり前のようだけれど、誰かと食べる食事ってすごく素敵だと思うんだ。
朝10時、すこし遅めの朝食をすませて執務室へと戻り、いま自分を悩ませている例の件についての書類に目を落とすこと1時間。

(そう言えば今日の朝食はデザートがなかったな…)

昼はプリンでも食べたい。プリン・・・あ、しまったヨダレが。きっとアリサも喜ぶだろう、彼女も甘党だしな。…アリサと言えば昨日はいろんな意味で大変だったな。


「……たしか今日の午後だったよな」


チラリと時計に目をやる。……いやいやでもあり得ないだろう。ああ、そうだ。アリサは行かないと約束してくれたし心配することはない!うん、……


「・・・・・あぁ、くそ!」


そう思いながらも、思いたくても、確かに頭から離れないちいさな不安。それを掻き消すようにして書類を投げ出し部屋を出た。











「おい、なにしてんでんだよ。アイツの部屋の前で」


その声にハッと顔をあげれば、自分の幼なじみでもある嵐が自分を見下ろしていた。その言葉通り今俺はノックをしても返事が返ってこない彼女の部屋の前で立ちすくんでいる。頭を過った不安が、当たったのだ。


「っアリサを見なかったか?部屋にいないんだよ…やっぱり霧と出掛けたっぽくて、あああああああもう嫌な予感ってどうしてこうも当たるんだ!?忌まわしい直感めえええええええ!!」

「ちょ、おま、どうしたんだよ!よくわかんねえけどその直感は悪くねえだろ。とりあえず落ち着けって」

「あぁそうだな。ごめんな、G。いや嵐。じゃ、俺これからアリサを探しに行ってくるな!」

「アホか。行ってくるな!じゃねえよ。明らかに落ち着いてねーじゃねえか。このクソ忙しい中、テメェが抜けるわけにはいかねェだろ?霧と出掛けた、っつってたが、出掛けただけだろ?さすがの霧もテメェの客に手出しゃしねー……とは言い切れねえな、やっぱ」

「それじゃダメなんだよ嵐のばかあああああああ!!せめてそこは大丈夫と言ってほしかった!」

「つーか『例の件』は最重要かつ最優先だって言ってたじゃねーか」

「・・・・・だからなんだよ…」

「ん?」

「いや、なんでもない」

「とりあえず仕事に戻れ。テメェが動かなきゃ進まねーだろ?」

「あぁ゙ーうー、……はぁ。わかった。じゃあ、あとでなにか糖分持ってきてくれ。じゃないとやる気出ない無理ぜったい無理」

「ガキかテメェは。ったくしょうがねーなァ…」

「ありがとな、嵐!プリンだとうれしいぞ!」


そう言うと、わかったよと呆れた返事が返ってきた。いやー嵐はなんだかんだやさしいなー。彼の背を見送りながら、再びひとつのため息をつく。


「……面倒なことにならないといいけど」


直感が、なにかを告げているのは確かだった。俺の直感は昔から外れたことがないんだ。










ふわりと真っ白なワンピースが揺れる。人混みをかき分けて噴水までやってくると、見覚えのある奇抜…いや特徴的な髪が視界に入った。


「霧さん!」

「ああ、来てくださったんですねアリサ。プリーモに反対されて来ないかと思いましたよ」

「いや、まあ・・そうなんですけど」

「どうしました?」

「あっ、いやなんでも!」

「そうですか。では参りましょうか?」


そう言って差し出された手を追うようにしてぽかんと見ていれば「お手を」と言われ、慌ててその手に重ねれば、ちいさくクスリと笑われてしまった。は、恥ずかしい…。こういうのは慣れていないし、ジオは手を何も言わず掴んで走り出したから。

(……ジオ、今頃気付いちゃったかなぁ)

ジオとの言葉を裏切ってまで今日ここに来た理由。それは霧さんがどんな人なのかちゃんと自分の目で確かめたいから。たしかに霧さんはちょっと不思議な感じの人だけど(特に髪型とかすごく気になる)、だってジオが言うほど危険な人には見えないもの。


「つきましたよ」

「………ここ?」


霧さんに丁寧にエスコートされ着いた場所はずいぶんとお高そうなジュエリーショップ。ぽかんと呆けているわたしをよそに霧さんは、さも当たり前のようにお店へと足を踏み入れる。


「ききききき霧さん!?こ、こんな高そうなお店入れません!!」

「おや、何故です?」

「こういったものは大切な方に贈るものでして、わたしなんかと来る場所じゃ…」

「…大切、ですか。フフフ、とりあえず早くお入りなさい」

「え、ちょ、待っ…!!」


わたしの手を引き、ずんずんと店内へと進んでいく霧さん。途端に「ちょっと待っていてください」だなんて残して店員さんの元へと行ってしまった。どどどどどうしよう!落ち着いた店内、ケースに並べられたきらびやかなアクセサリーたち。明らかに不釣り合いである。かろうじてワンピースはジオが購入してくれたものなのでおかしくはないだろうけれど、周りを見渡すと綺麗に着飾ったお姉さんやお兄さんが視界に入るわけで、ああもうなんて場違いなのわたし!かたまっているわたしを他所に霧さんはお店の人との話を終えたらしく、こちらに向けてちいさく手招きをしている。ギクシャクしながら霧さんの元へとやってくれば、お店の人はもう居らず、霧さんがニコニコとひとり立っていた。


「き、霧さん?」

「さて いきましょうか」

「え、あ、はい」

「そろそろ小腹が減り始めた頃でしょう?ランチにしましょう、いいお店があるんです」


ジュエリーショップを出て、また先ほどのように霧さんに手を引かれながら歩いていく。結局ジュエリーショップには何をしに行ったのだろうか?なんだか自分が恥ずかしい。いや、もう穴があったら入りたい。

(ひとりで浮かれて、わたし完全な勘違いヤローじゃんかァァァ!!)


それでもちゃんとお腹は減っている自分を殴りたい。


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