赤が敷かれた廊下を突き進む。小走りでも、やわからい絨毯に吸収され足音は響かない。体を駆け巡る苛立ちと、妙な焦りを少しでも和らげる為にズボンのポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「チッ…」
いつだってそうだ。自分勝手でワガママで、ガキの頃からずっと一緒に居るというのにお前は俺を頼ろうとしない。お前の考えていることはなにひとつわからない。いや、隠すんだ。お前が、プリーモが、"ジョット"が。
「おい ジョット」
「…あぁ、嵐」
「・・・・・」
ノックをせずに執務室の扉を荒く開ければ、そこにはジョットだけではなく他2つの影。まだ昼前だというのに黒いカーテンは中途半端に閉められており、部屋は薄暗い。するとふたつ並んでいた方のひとつの影が「フフフ」と不愉快な笑いをこぼし、口に弧を描いてこちらへと向いた。
「おやおや。相変わらずですねぇ」
「…んだよ。お前らも来てたのかよ」
「ねぇ、はやく話を進めてよ。僕は忙しいんだ」
もう一方の影が苛立ちのこもった声色で話を促す。人と合わせることを嫌うこいつ。その隣には普段はどこにいるのかもわからない奴。そんな奴等が揃って来ているなんて珍しい。いや、頻繁に出入りしているとは言え実際に俺も今日ここに来ているわけだし、これからあいつも来るのだけれど。
「あぁ、そうだな。嵐、君も…」
「…おい」
ジョットは話を進めようと何やら手に持っていた書類に目を移したが、それを遮ればジョットはすこしだけ顔をしかめて小さくため息をついた。
「あのガキ、なんだ?」
「…まったく、アリサを一人にするのはよくないと思ったから嵐に頼んだのにな。それにここでは名前で呼ぶなと何度も、」
「質問に答えろよ!」
「まぁそう声を荒げないで下さい。G」
「・・・・」
スッと一歩の腕が俺とジョットの間に制止に入る。それに少しだけ冷静になり、また一本煙草をくわえれば、反対隣にいた人物が扉へと足を向けていた。
「これ以上無駄に騒ぐなら僕は帰る」
「あぁ待ちなさい。そう苛々しないで下さい、アラウディ」
「気安く名前を呼ぶな。僕は君と同じ空間に居るのも気に喰わないんだ。だいたい僕と君は立場上、」
「はいはい。それなら散々聞きましたよ」
「…やっぱり君は気に入らない。殺してから捕まえる」
「アラウディ!てめぇこんなとこで暴れんじゃねえよ!」
「フフフ、貴方も人のこと言えませんがね」
「・・・てめえはほんと人の気を逆なでるのがうめぇな」
「ハァ…話が脱線しまくりだな」
(とりあえず落ち着かないと全員ここで燃やすよ?)
(((・・・・)))
霧が雲を名前で呼ぶのはわざと