教えてもらった通り、早歩きで廊下を右に曲がる。あそこにいたのは声からして男の人だったけど一体誰なのだろうか。親切に教えてくれたし、きっといい人だろう。あとでジオに聞いてみようと軽く考えながら私は食堂に向かった。
「あ、遅かったなアリサ。心配したぞ」
食堂にたどり着き、大きな扉を両手で押して開く。ギィと低い音が響いて扉が開けば、ジオは既に席についていてテーブルの上の食事に手がついていないことから、どうやら私が来るのを待っていてくれたらしい。
「ご、ごめんね。待ったでしょ?先に食べててもよかったのに」
「ん、大丈夫。もしかして迷ったか?」
「え!?あ、まぁ…アハハハハハ!」
図星である。だ、だってこのお屋敷、広いんだもんっ!!そんなにすぐに覚えられないよっ!!席につこうとテーブルに駆け寄れば、アリサーと名前を呼ばれたのでチラリとジオへと視線をやれば、
「ほーら。ここに来ーい」
と、さも当たり前のようにぽーんぽーんと自分の膝の上を叩きニコニコと笑って手招きするジオがいた。
「……えーっと、私にそこに座れと?」
「ああ!ホラおいで」
「いや、遠慮しときます」
当然のようにすぱーんと断って向かいの席に腰を掛ければジオの、へぇ…?という小さな呟きが聞こえた気がしたけれど、気のせいだと信じた。いや信じたかった。「そっかそっか。いい度胸だな、アリサ?」……なんて悪魔の囁きなんか聞こえないんだからあああああ!!
「・・わ、わぁ。今日も美味しそうだねえ…い、いただきまーす」
「……まぁいいけどなー」
ジオのちょっぴり冷たい視線に耐えつつ、テーブルの上を見渡す。今日のメニューはサンドウィッチ、ソーセージ、トマトのサラダ。ソ、ソーセージなんか久しぶりだっ!!・・なんて思ったらギリギリの生活を送ってる自分が凄く虚しくなったのでその考えは捨てた。ああソーセージぷまい。
「あ。ジオ、そう言えばさっき…」
フォークを握りしめ、目の前ソーセージに手を伸ばしながら、先程ここまでの行き方を教えてくれた親切なお兄さんのことについて聞こうとした。と、その時。
『プリーモォォォオオ!!』
バアアァァァァァン!!!
あの大きな扉が勢いよく開き、ビックリしてそちらを振り向けばそこに立っていたのは眉間にシワを寄せた赤髪のお兄さん。顔にはタトゥー?か、入れ墨のようなものが刻まれていて、口にはタバコをくわえていた。その容姿はまるで、ふ、不良…いや、ヤクザだ!!!
「おお、嵐。お前も朝食を…」
『さっき知らねぇ奴に日本語で話しかけられた!どいうことだ?説明し「うるさい」い゙っ!!?』
「!!?」
ゴッ、と言う鈍い音がしてヤクザお兄さんがぱたりと倒れた。なんでかって?それはジオがヤクザお兄さんにフォークを投げつけたからである。う、うわぁ…超痛そう……。っていうか痛いで済まされるのアレ?
「…〜っ!いきなり何すんだよ!つーかアイツもいねぇってのに何で日本語なんか、」
と言いつつ日本語で話始めるヤクザお兄さんにじっと視線を向ける。だ、大丈夫なんだろうか?フォークが頭に刺さってますけど…。しかし何故かそこからは血が一滴も出ていないどころかカラン、と落ちたフォークにも血はついていなかった
。
(えええええええええなんでええええ!!?有り得ないでしょおおおおお!!)
「ん…?」
「!!」
そんな私の視線に気付いたお兄さんは、相変わらず目付きの悪い目でちらりとこちらに視線をやったかと思えば、ギンッと鋭く私を睨み付ける。
「つーかなんだこのガキ。・・日本人か?ってことはさっきのはてめぇか?」
「ひ、ひぃっ!?」
「ほら、そんな睨んだらアリサが怯えるだろう。ただでさえお前は見た目がアレなんだから。な?嵐」
「おいアレってなんだよアレって。な?じゃねぇよ。ったく・・」
『嵐』と呼ばれたお兄さんは、はぁ…と深くため息をついた。話の流れからして先程親切に道を教えてくれたのはどうやらこの人らしい。(え、マジですか)
「紹介する。こいつの名前は嵐。俺の・・幼なじみだ」
「嵐、さん・・・?」
その名前に疑問を持つ。だって、赤色の髪に深い真紅の瞳。確かに嵐のように赤をイメージさせるが、普通に考えて日本人じゃない。ましてや私のようにハーフと言うわけでもないのに何故名前が『嵐』?はてなマークを浮かべている私に対して、ジオと嵐さんは何も言わなかったので私も深くは聞かないことにした。まぁ別に対した理由ではないだろう。
(ジオのことだし)