「そう言えば自己紹介がまだだったな」


そう言って彼は手にしていたティーカップをテーブルに置き、私に柔らかく微笑む。その笑顔に一瞬ドキッとしてしまったのは秘密だ。きっとわたしはこの人のペースに流されてるんだそれだけなんだそうに違いないんだからァァアア!!


「俺のことは…そうだな。ジオ、と呼んでくれればいいかな」

「ジオ、さん?」

「んー…日本人は何故敬称を付けたがるんだろうか?」


俺の知ってる奴は全然だけど、と彼はちいさく苦笑いをする。……ん?ということは日本人の知り合いが居るのだろうか?なんかやたら日本語上手いし。そんなことを考えていればどうして敬称つけるの?と首をかしげて聞いてくる。いやいや首かしげるって首かしげるって!男の人なのにちょっと小動物っぽかったよ!かわいいよこの人!


「ってそうじゃない……えっと、日本人は目上の人を敬うんです。それに私一応イタリアの血入ってるんですけどね」

「あぁ、アリサは瞳の色以外本当に日本人寄りだからな。すぐわかるよ」

「・・ですよねえー」

「でもここはイタリアだしな。呼び捨てでいい。あと敬語も無しだ」


その言葉にしぶしぶ小さく頷けば、彼は嬉しそうにニコニコと笑う。いや、イタリアなのに日本語で会話してることについてはなんとも思わないのだろうか……まぁ確かにわたしはイタリア語より日本語の方が話しやすいし、髪は黒いし童顔……だし、僅かな瞳の色以外区別つかな・・・


「い……っ!」

「どうした?」

「だ、大丈夫。ちょっと目眩がしただけ。最近よくあるの」

「・・・目眩?」


キン、と頭を走った鋭い痛み。それはこうして時々起こるもので、特に気にはしていなかったけれどやはり痛いものは痛い。ズキズキと余韻が残っている頭をおさえていればジオは一瞬瞳を伏せ何かを考えたあと、うんうんと頷きはじめた。訳が分からずジオを見ていれば、まだ目眩する?と聞かれたので、少しだけと答えれば何とも嬉しそうな顔をされた。え、ちょ、人が具合悪いって言ってるのにそんな顔されても困るんだけど……


「うん、なら仕方ないな!」

「え?」

「具合悪そうにしている子を放ってはおけないしな!」


にっこーり、とこれまた満面の笑みを浮かべる彼。・・いや、ちょっと待って!!?く、黒いよっ!?なんかこの笑顔ものすごーく黒いですよっ!?絶対良からぬこと考えてる人の顔ですよ!?いいいい嫌な予感がするんですけど!!そんな彼に恐る恐る、それはどういう意味?と聞いてしまったことをきっと私は後悔するだろう。いや、している。現在進行形で激しく後悔しているよ……そしてジオは黒い笑顔をこちらに向けながら、口を開く。


「今日はここに泊まるといい」


………………なんでだよ。

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