あれ?なんだか体が重たい。なんていうか、こう…人が乗っかっているような。………
「って、え!?」
「あ、やっと起きた」
「ひゃああああああああ!?なななななにやってるんですか白蘭さん…!」
「なにって…ヤダなーそれ聞いちゃう?」
「っ!?」
妙な圧迫感に目を覚ませば、目の前には私の顔の横に両手をついて私を見下げている白蘭の姿。所謂、馬乗りというやつだ。ま、まさか…
「夜這、」
「なーんてね。もう朝だから起こしに来てあげたんだよ」
「は?…え?あ、朝?」
「ホラ」
白蘭はよいしょと立ち上がると、シャッと部屋のカーテンをあける。きらきらと寝起きには眩しすぎる陽が差し込んで、ほんとにもう朝なのだと実感する。それと同時にからかわれたことに気付き、そのへんにあった自分の携帯を白蘭に向かって思いっきり投げつけた。がしゃーん。何かが割れる音がした。
「ザーンネン」
「なっ、ちょ、避けないでよおお!!ひいいい窓割れちゃったじゃないですか…!」
「えっ、僕のせい?じゃあ投げないでよ」
「ああああ携帯…!!」
「あれ、スルー?」
ひどいなー、と笑っている白蘭は無視して、飛び上がって部屋を出た。私の投げた携帯はひょいっとかわされ、白蘭ではなく必然的に白蘭の後ろの窓にアタックした。当然ながら窓は割れ、携帯はそのまま外へダイブ。ちょ、もうマジで携帯だけは無事でいてェェ!
「ケータイ無事だった?」
携帯を保護し、顔を洗って部屋に戻ろうとした。が、ずるずるとリビングに連合された。もちろん白蘭によって。
「…おかげさまで傷だらけですけど」
「壊れなかっただけよかったじゃん」
「窓は割れましたけどね」
「キミが割ったんじゃん♪」
「(…音符うざ…!)」
朝から大変なめにあった。(主に窓と携帯が)ちなみに昨日私はジャンプが山積みの隣の部屋で毛布にくるまって寝た。いやほらさすがにマフィアのボスと同じ部屋で寝るのは気が引けるので。寝て目が覚めたらお花畑が広がる天国でしたー、とかはいやだ。起きたら横には寝息を立てる彼がいた…みたいな夢小説的展開じゃなくてすみません。
「今日学校ないの?キミ高校生でしょ?皆いないけど…あ、もしかしてサボりってやつ?」
「…今日は土曜日なんで休みなんです。親は仕事で弟は保育園ですけど」
「ふーん」
「…どうでもよさそうにするなら、聞かないでもらえますか」
「腹減ったなー。ねー朝ごはんー」
「私をリビングに連れてきた理由はそれですか幼稚園児みたいですよ白蘭さん」
「アハハ、なわけないじゃん。キミ料理つくれないのに」
「なっ…たまごかけごはんなら、」
「ってわけで、いこうよ。コンビニ」
「…」
ずかずかと玄関に向かう白蘭を私はただ黙って見つめて立ち尽くし、ため息をついた。拒否権は、無いようだ。
(…そんなに嫌か。たまごかけごはん)
「へぇー日本のコンビニはじめて来た」
「ていうか、異世界のコンビニ自体、はじめてなんじゃ、ないんですか…!」
「あれ、なんでそんなに息切れしてんの?」
急いで着替えて、仕方なく財布とボロボロに変わり果てた携帯を握り締めて外へ出た。白蘭はウッキウキだった。なんか語尾に音符つけまくってた。そして当たり前だが白蘭は道を知らないわけなのに、勝手にあっちへ行ったりこっちへ行ったりするものだから近くのコンビニに着くまでに相当な時間がかかった。さらに相当の体力が消費された。私の。
「そ、それは白蘭さんが…って、ちょ、待っ!」
「さーてなに食べよっかなー」
「ひとりで行動しないでってばああああ」
ウィーン。いらっしゃいま…せ…。
適当にサンドイッチでも買ってはやく帰ろう。そう思っていればふと店員さんの声色が明らかに変わったことに気付く。なんていうか、こう、珍しいものを見て唖然としたような…なんだコレみたいな…。店員さんの視線を追って、私はお菓子コーナーでわくわくしている隣の彼をチラリと見て、ようやく気付いた。そして血の気がサァーッと引いた。
「ん、あれ?どうし…」
「しゃしゃしゃしゃらぷっ!」
「ふがっ」
「(ぜっったいに喋らないで)」
「?ふごふご(なに言って)、」
「(しゃ・べ・る・な)」
私は白蘭の目の前にあったお菓子…マシュマロを掴んでそれから適当にそのへんのものを手にレジへと向かった。 店員さんは呆けたままだったので、私は視線ではやくしろと伝え会計を済まし、白蘭の手を引いてコンビニを出た。
「ねぇねぇ、なにそんなに焦ってんの?僕もっとコンビニ見てまわりたかっ…」
「びゃびゃびゃびゃ白蘭、隊服のままじゃん!!気付かれちゃったらどうすんの本物の白蘭っていや絶対気付いてた今の店員さん絶対リボーン知ってるこんなに似ているレイヤーさんなんていないもんそりゃ私も最初は『白蘭っぽいひと』とかって思ったけど、でも漫画の中の人物がいるだなんてバレたらうあああああああ」
「アハハ、キャラ崩れしてるよ?とりあえず落ち着いてよ?周りの人、すっごい見てるしさ」
「…!と、とにかく服買おう服!それじゃ目立っちゃうよここ日本だし」
「えー僕お腹へったから帰りたいんだけどなぁ」
「マシュマロで我慢…!!」
「マシマロ?」
「…マシマロ。」
「んー仕方ないなぁ」
買ったマシュマロを彼の胸に押し付けると彼は全然仕方なくなさそうに袋をあけてマシュマロをふにふにと指で弄りながら口へ運ぶ。そして突き刺さる視線に耐えながら、白蘭の手を引っ張って近くのショッピングモールへと向かった。マシュマロを食べている外人と、その手を引いて歩く若い女の子。もちろん途中の視線は痛かった。
「ねぇねぇ。コレ日本の高校生が買うにしては値が張ると思うんだけど、っておーい聞いてるー?」
「(か、かっこいい…)」
白蘭に似合うような店があり、そこで一式と他何日かぶんを購入。あぁ、私の地元栄えててよかった…!だけどさすが外人。背は高いし、手足は長いし、かなりのスレンダー。服は変わっても、なんていうかオーラは変わらないっていうか…ぎゃ、逆に目立ってる気がする。まぁ白髪にアメジストの瞳なんていないもんね…。そして悔しながらめちゃくちゃかっこいい。一瞬見惚れてしまった。あ、いや一瞬じゃないかも。よく普段制服とかの人の私服を見ると、なんかドキッてするっていうのがわかる気がする。このギャップは、やばいです。
「え、あ、だ、大丈夫だよ。お金なら、たくさんあるし」
「…ふーん。ヤな高校生だね」
「なっ、」
「アハハ、うそうそ。ありがとねナマエチャン」
ぽん。ふいに頭に置かれた手と、呼ばれた名前に心臓がどきりと跳ねる。お、おかしい今まで男の人に頭を撫でられたくらいでこんなに…すこしだけ、うれしいと思ってしまった。
「ど、どういたしまして…」
やっと出た言葉に、にっこりと笑う白蘭を素直にかっこいいと思ってしまったのは、ひみつだ。