「静雄くんっていっつも女のコと1週間以上つづかないよね」


体育館裏のベンチがわたしたちのはじまり。そこでわたしの隣におっきく座りながらお昼のパンをもぐもぐと口に運んでいた彼はそれをぴたりと止め、わたしの方へと視線を向けた。太陽のひかりがきらきらと眩しくて、わたしはすこしだけ目をほそめてにっこりとわらう。


「でもそれって静雄くんがおんなのこにキレてふられちゃうからなんだけど。まぁ静雄くんに原因は無いよ。だって静雄くんこんなにやさしくて大切にしてくれてるのにおんなのこたちはばかだから。うん、気付かないおんなのこがばかなの」

「・・あ゙ー、過去のことはどうでもいいから」

「ううん、大事なことだよ。ねえ、静雄くん。どうしてか教えてあげようか?」

「・・俺はもうおまえがいてくれたらいいよ」

「だめだよ、だって今日はわたしたちの1ヶ月記念日でしょ?だから、今日が約束の日なの。・・臨也くんとの約束の日」

「・・・・」

「一週間以上続かなかったのはそのおんなのこたちが臨也くんの駒だったから。臨也くんは静雄くんをからかってあそんでたのよ。でもイライラする静雄くんしか見れなくて、静雄くんはなかなかおんなのこたちに執着を見せなくてつまらなかったから、すこしだけ仲のいいわたしが選ばれたんだよ。だからわたしはあなたがだいきらいな臨也くんの手駒であなたと付き合ってたっていうこと。一ヶ月続いたのは臨也くんの気まぐれ。だからわたしはもう、」

「知ってたよ」

「え?」

「お前があいつに言われて俺のところに来たことも、お前があいつをすきだってことも。それでも俺はお前がいいから。だから別れてなんかやらねえし、今さら臨也のとこになんかかえさねえ」


ふわり、静雄くんのにおいがいっぱいに広がる。だめ、だめだよ、離してよ。だって今日わたしは静雄くんに、さようなら次のおんなのこには騙されないようにねってネタバレしてかっこよくお別れするはずだったのに。そこまでが臨也くんとの約束なのに。そしたら屋上にいるはずの臨也くんによく出来ましたってあたまを撫でてもらうのよ。それってなんてしあわせなことなんだろう!だってわたしはずっとずっと臨也くんがすきだったんだから!


「・・臨也くんはね、静雄くんは暴力的で野蛮なやつだって言ってたのよ。おかしいなあ、臨也くんの言うことはぜったいに間違ってないはずなのに。ねえ、じゃあどうして静雄くんはそんなにやさしいの?どうして臨也くんよりもわたしの欲しいものをくれるの?わたし、わからないよ。わからない、の・・」

「・・・・」

「こたえてよ、静雄くん」


わたしのすべての臨也くん。だけど、このぬくもりを失うと考えたら。

1ヶ月間、たしかにしあわせだった。静雄くんは騙されてるっていうのにやさしくて、あったかくて、いつでもそばにいてくれて。わたしがずっと欲しかったものをいっぱいくれた静雄くん。臨也くんはくれなかったものをいっぱいくれた静雄くん。あぁ、これがたいせつにされてるってことなんだなあって思ったの。どうしよう、わたし、わたし、


「・・知ってるか?俺が他のおんなを引き止めなかった理由」

「ううん」

「お前が臨也から離れるのを待ってんだよ」

「え?」


そっと見上げたところには一ヶ月ずっと見てきた静雄くんのきれいな金糸が太陽に透けてきらきらと輝いていて、気がついたらそれはゼロ距離だった。触れたのは、やさしいやさしいくちびる。わたしにはやさしすぎるくらいの。


「あ゙ー、だから!・・ずっとお前がすきだったんだよ、ばか」


ごめんなさい、臨也くん。屋上にはいけません。
20100528
テーマ:口調が穏やかなやさしい静雄
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