「おはようございます」
「あ、うん。おはよう」
「・・おはようございます」
「え、だからおはようって」

ザァザァと窓を打ち鳴らす音にぼんやりと目を覚ます。なんだか体がだるい。まったく、雨の日の朝はどうしてこんなにも気だるいのだろうか。隣でなんだか不服そうな顔をしながらわたしを見つめる彼もまた、わたしのように雨で憂鬱な気持ちになっているのだろう。まったく雨ってやーね!


「・・ナマエ、チョコレートケーキが食べたいです。もちろんナマエが作ったやつを」
「え なんで?今日は雨だし、仕事までゆっくりしてたいんだけど」
「ダメです、作りなさい。今日ぐらいいいじゃないですか」
「いたたたたたた!!食い込んでる!肘が食い込んでるよ骸クン!?人のみぞおちを肘掛けにしないでほしいな!・・ったく、なんでいきなりケーキなんか食べたいだなんて・・」
「・・まさかとは思いますが、お忘れなわけないですよね」
「え?なんかあったっけ?」











なんか知らないけどあのあと骸は、もういいです一人で美味しいケーキ食べて来てやりますこのバカとかなんとか言って家を出ていってしまった。・・おかしいな、わたしなんか気にさわるようなこと言ったっけかな。それともそんなにチョコケーキ食べたかったのか。窓に目をやると相変わらずの灰空で、本当にいろいろやる気が吸いとられていく気がする。まったく、こんな雨なのに外いくとかばかじゃないの。そう言えばここ最近やたらジメジメしているし雨もよく降る。ああ、梅雨だからか。梅雨・・あー、そう言えばもう6月か。どうりで・・

・・・って 6月?


「・・今日って何日だっけ」

もちろん呟きに応えてくれるひとはいない。わたしは枕元にあった携帯を手に取って日付けを確認した瞬間、やってしまったと呟き寝巻きのまま部屋を飛び出した。











玄関にあったピンク色の傘をひとつ手に取った。と言ってもこの家にはこのド派手なピンク傘ひとつしかないから必然的にこれを使うことになるのだけれど。こんなとき、きっと傘なんてささずに駆け出すのがセオリーってもんなんだろうけど、そうは出来ない理由がわたしにはきちんとあるのだ。


















「みつけた」

ぱしゃりと滴が跳ねる。走ったせいで傘をさしているのにも関わらず、すっかり濡れてしまった。ハァハァと息がきれる中、ずぶ濡れで立ちすくんでいる彼に傘を傾けると彼はわたしの方は見ようとせずに傘をちいさく押し退けた。


「・・風邪、引くでしょ」
「僕はいいです。風邪なんか引きません。それにどうせもう濡れていますし」
「こんなところでなにやってんの?チョコケーキって海辺にあんの?」
「雨に当たりたい気分なんです。放っておいて下さい」
「・・なに拗ねてんの」
「拗ねてなんかいません」
「・・ねえ、もういいよ」
「・・・」
「雨は冷たいじゃん」
「・・・」
「骸はもう、きれいだから」


昔からそうだった。骸は雨の日に傘をささないで暗い空を見上げてる。どんなに激しい雨でも、例え嵐でも構わずにビショビショになって帰ってくるのだ。もちろん傘が買えないとかそういうわけじゃない。仮に買えなかったとしても幻覚でどうにかなるわけだし、そう言った点は考えられない。ある雨の日も骸はやっぱり傘はさしていなくて、わたしはピンク色のド派手な傘をさしながらなんで?って聞いてみたら、雨が古くから自分に染みついた汚れを落としてくれるからだと泣きそうな顔で笑いながら言うものだから、わたしはどうすることも出来ずに手にしていた折り畳み傘をそっと隠した。

いまだって、わたしは彼を雨から守ってやれない。












「ごめんね」
「それは一体なにに対してですか?」
「・・んー、なんかいろいろ。わたし骸になんにもしてあげれないなって思った」
「・・別にそんな」
「だからさ、チョコレートケーキくらいは作ってあげるよ」
「え・・・?」
「生まれてきてくれてありがとう」
「・・・・」
「誕生日おめでとう」


わたしは傘を離した。でもね、その代わりにわたしが骸を雨から守ってあげるから。抱き締めた骸の体は冷たくて、いつもこんな思いをしていたんだと思うと目頭がじわじわと熱くなった。骸はハァとひとつため息を吐いたあと、しあわせそうな照れくさいような、はにかんだような笑顔でわたしの体をそっと、抱きしめ返してくれた。


「帰りはふたりでチョコケーキの材料買いに行こうね〜」
「・・まったくお前はおバカさんですよ」
「んだとコラ」
「ですが、・・・ありがとう」
「うん」


















「雨っていいかもしれない」
「なぜです?」
「こうして骸とぴったりくっつけるからだよ!傘をさすのもいいでしょ?こうすれば雨なんか冷たくないし」
「・・この傘は目立ち過ぎます」
「かわいいからいいでしょ。そんなことまで気にしてられなかったの」
「だからって、…はくしゅん!・・あ」
「・・ほら言ったじゃない。ってか、くしゃみ可愛いし!」
「う、うるさいですよ」

20100609
HappyBirthday 骸!
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