気付いてない気付いてない気付いてないの。わたしのことをほんとうに想っているのなら気付く筈でしょう?これだとあなたはわたしのことを想っていないことになってしまうわ。ダメよ、ダメ。そんなの認められない!あなたはずっとずぅぅっとわたしを想って追いかけて愛してくれなきゃいけないのよ!だけどこれに気付いてしまったらそこでおしまい。あぁ、その方がダメだね。ねぇ、ほら。今日もまたそんな矛盾した日々が始まるの。
「ね、白蘭。今日はなにする?チェスをする?カードをする?それともまた白蘭のお話聞かせてくれる?」
「んーそうだなぁ。じゃあ今日は僕の話でも聞いてもらおうかな?」
「うん!」
並べられていく言葉に従って、それを頭の中で造り上げていく。白蘭は扉を開ける為の『鍵』を探しているらしく、私も出来るだけ協力したいと思っている。だからこうして嬉しそうに話す白蘭の話を聞いているときが私にとってとてもしあわせな時間なの。
「それで僕は新しい世界を造るんだ」
「そこに私も連れてってくれるよね?」
「もちろんだよ」
「…ねぇ、白蘭」
「うん?」
「私のこと好きだよね?誰よりも何よりもいちばんは私だよね?」
「ナマエチャン」
「びゃくら…」
ぱしん!
彼の頬へと伸ばした私の手は乾いた音と共に宙を切った。なんで、どうして。ひゅーひゅー、と喉に空気が入り、冷や汗が頬を伝う。彼が取った行動は私が求めていたものと180度違ったもので、耳元にあったはずの白蘭の唇はいま私の目の前で冷たく弧を描いていた。
「びゃく、らん…?」
「うん、とでも言うと思った?」
「…どうして、」
「君は僕を騙してると思ってたらしいけど」
「…!?」
「それは間違いだよ」
「なっ…!?」
「だっておかしいと思わないかい?気付いたら君は僕のことばかり考えてる。つまりそれってさ、君が僕にしようとしていたことと同じじゃない?」
「じゃ、じゃあ…」
「そっ」
今までずっと白蘭は私に騙されたふりをしていたの?私の心の裏を知りながら、唇では偽りに更に偽りを重ねた愛の言葉を紡いで、胸の内では嘲笑っていたというの?私が白蘭を想っているこの気持ちも紡いでいた言葉もすべて、偽りだったというの?ちがう、わたしは、ほんとうに、びゃくらんのことを、
「騙されてたのはキミだよ、僕の大事な『鍵』のナマエチャン」
偽心世界
(あぁ、最初からすべて偽りの世界)
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白蘭が自分を好きになるよう術をかけていた筈が、そう仕向けていたのは白蘭だったという偽りだらけの話でした。ちなみに主人公はトゥリニセッテに必要な存在という設定です。
20100412