「お待たせ致しました」可愛らしいウエイトレスさんが真っ白なエプロンを揺らして紅茶をテーブルに置いてくれる。あぁいいなぁ…こんな女の子らしい職業に就けるなんて。でもこんなにフリフリのエプロン恥ずかしくないのだろうか。私だったらちょっと、いやかなり恥じらいがある。でも女の子なら少しは憧れるよねこういう可愛いものとか。「ご、ごゆっくり…」あまりに羨む目で凝視していたのか、ウエイトレスさんは若干引き気味に戻っていった。あ、いやなんか申し訳ありません。午後のカフェテラスでどんよりとしている私はきっと浮いていると思う。現にいま私は隣の席のカップルに変な目で見られている。あぁ視線が冷たい痛い。だけど私はいま大きな悩みを抱えているのだ。許して欲しい。私は大好きなあの人に嘘をついていることがある。それもかなり大きな。だからそれを今日打ち明けようと待ち合わせをしているんだけど… 「はああああ…なんて言えば…」 「なにがですか?」 「あぁ、実は私・・って、え!?」 「こんにちは」 「つつつつつ綱吉くんっ!?」 「今日も元気そうですね。ナマエさん」 そう言って、先程のウエイトレスさんを呼んでアイスティーを頼む綱吉くん。ちなみにレモンかミルクかを聞かれて少しだけ恥ずかしそうにミルクと答えていた。え、なにコレ可愛すぎるんですけど…!ってそうじゃなくて。ウエイトレスさん頬染めちゃってるよ。そりゃそうだよね綱吉くんって母性本能くすぐられるのにかっこいいしね。うん、だからと言ってお隣のカップルの彼女さんは熱い眼差しで見つめちゃだめだと思うんだ!彼氏が睨んでるよ気付いて! 「そう言えば学校の方はどうですか?平日の昼間から俺なんかと会ってて大丈夫ですか…?」 「えっ、いやいやっ!!綱吉くんは特別だからっ!!」 「え、えへへ…嬉しいけど課題とかはちゃんとやらなきゃダメですよ?」 「だっ大丈夫!ちゃんと終わらせてきたから」 そう、現在私は彼の中で『専門学校に通っている普通の女学生』となっている。いや、あながち間違ってはいないのだが・・その専門学校というのは・・えっと、暗殺専門、で。 「ナマエさん?どうかしました?」 「いっいえ!なんでもございませんです!」 「あはは、日本語おかしくなってますよ」 毎日殺しを学んでます今日の課題も暗殺で先程終わらせてきたばかりです!なんてそんなこと言える訳がない。綱吉くんは、使わなくてもいいと言ってるいるのに敬語を使って律義に『さん』付けで呼んでくれるし、いつもパリッとしたスーツを身に纏っていて、なんともカッコイイ仕事の出来る男と言った感じだ。いや実際そうなのだ、彼は大手企業の若社長サン。ああもう狡くない?綱吉くんは優しくてあったかくて、容姿端麗、成績優秀、しかも社長サン。天は二物を与えないとよく言ったものだ。 「あ、ああああのですね…綱吉くん」 「なんですか?」 「その・・就職先、が決まったの」 「えっ、おめでとうございます!頑張ってましたもんね、ナマエさん。俺も嬉しいです」 「(うああああ優しいかっこいいいいい…!)」 「ナマエさん?」 「あっ、…で、なんだけど…」 はいここで問題だ。私はと言えば、この度私も大手ファミリーに入隊することが決まったばかりのぴっちぴち女マフィア。マジでこんな根っから暗殺を職にするハタチ過ぎの女なんてどこにいるんだと言う話なのだが、残念ながらハイここにいますすみません。だがそれを嘆いたことはない。両親も期待していたし、私にとってもかなり喜ばしいことなのだ。が、私にはひとつ気掛かりがある。勿論それはこのことを彼が知ったとき、どんな反応をするか、だ。 「…」 「ナマエさん?どうし、」 「ケフィア!」 「え?」 「・・ごめん、違うの。その、・・フィア」 「?」 「えっと、だからその・・あーっと、・・うあああああ!私マフィアなの!!」 ああああ言っちゃったついに言っちゃった!こわいこわいこわい。私がマフィアなんかと知ったらやっぱり気味悪がられるに決まってる。いやそれ以前に人殺しなんかと関わりたくないよね…!あーもう職なんかより愛を取るべきだっ「そうですね、楽しみだなぁ」……………ん? 「・・今なんと?」 「え?楽しみだなって」 「・・あの、聞き間違えかな?そうだよねアハハ私混乱してるんだなアハハ」 「大丈夫ですよ、ボンゴレはいいところですから」 「・・ごめん。話についていけないです私」 「あれ?ナマエさんの就職先の筈なんだけどな」 にっこりと笑ってミルクが注がれたアイスティーを口にしている綱吉くんに私は全然ついていけない。なにこの温度差。頭の中がこんがらがって言っている言葉が理解できなくなってるよ。そうだ、確かに私の就職先はあのボンゴレファミリーだ。だけどどうして綱吉くんがそれを知っているの?綱吉くんは大手企業の社長さん・・なんだよね? 「・・あ」 ぴこーん。 なんだかとてつもなく嫌な予感が頭をよぎった。目の前の彼は頬杖をついてにこにこと笑ってる。しゃ、社長さんって、も、もしかして・・ 「これからよろしく、"ナマエ"」 「っ・・!?」 耳元で囁かれた聞いたこともない低音ボイスに体の熱が上がる。え、ちょ、えっ!?つ、綱吉くんってこんなに声低かったっけ!?そして私の手をとって少し何かを含んだように笑う綱吉くんがもうどうしようもないくらいにかっこよかった。あぁどうしよう。マフィアって社内恋愛オッケーなんだろうか。 「とりあえず逃げるかな」 「え・・?どうして?」 「なんでってさっきナマエが真っ昼間のこんな人の多い場所で自分はマフィアですって告白しちゃったからだろ?あ、ホラ隣のカップルの彼氏、警察に電話してる」 「え゙っ・・、は、はやく行こう!」 「あーあ、せっかくのデートが逃走劇に変わっちゃうな。ま、ナマエのせいだし来月から覚悟してね?死ぬほど可愛がってあげるからさ。・・いろんな意味で」 「なっ…!?」 大好きなひとが、ドS上司に変わった瞬間。 |