今思えばそう、あなたも私も寂しい人だった。









「どういうことですか・・白蘭様」


ぽつり、真っ白な広い部屋に響いて消えた私の声。白く柔らかなあのお菓子を人差し指と親指でふにふにと潰しながら、にっこりと笑っている彼は特に変わった素振りも見せず、私を見揃える。相変わらず彼は足を組みソファに腰掛けたまま。


「んー、何が?」
「っ、ふざけないで下さい!何故私に黙って…!」
「あぁ、ボンゴレ狩りのこと?」
「!!」


あっさりと出てきた言葉に思わず体が反応してしまう。ふるえる拳を隠して、すぅと息を肺へと送る。私はミルフィオーレ・ホワイトスペルに所属、白蘭様の直属の部下にあたるもので所謂秘書。今まで新しく行う計画などは全て教えて下さっていたのに、今回の【ボンゴレ狩り】については何も聞かされていなかった。おかしい、こんなことは今までに一度だってなかった。他人にあまり執着が見られない白蘭様も、どんな命令でも文句ひとつ言わず完璧にこなす私を少なからず必要としてくれているはずなのに。少なくても正一くんと同じくらいは。なのに、どうして?そんな私の気持ちを読み取るかのように白蘭様は口を開く。マシュマロは手でいじったまま。


「だーってさ、ナマエチャンに話したら今みたいに反対するでしょ?」
「・・え?」
「僕、知ってるんだよね!ナマエチャンがスパイだってこと!」
「びゃ、白蘭様…?何のことだかわからな、」
「もういいって。今更隠さなくてもさ」


にっこりと微笑む白蘭様は先程まで手にしていたマシュマロをぐちゃりと握り潰した。あぁ、もったいないだなんてこの期に及んでそんなことを思った私はどうにかしてる。けれど内心冷や汗だらり。私の背にはひやりとした真っ白な壁、顔の横には白蘭様の両腕があって目の前には冷たいアメジストが私を捉えて離さない。


「・・・なんだ、」


手にしていた分厚い報告書を床にバラまく。彼のためにたくさんの時間を費やして作り上げたそれも、もうなんの意味も持たない。ミルフィオーレの隊服のファスナーをゆっくりと下ろす。ぱさりと落ちたそれの代わりに現れたのは今までのそれと対照的な黒いスーツ。本来の、私。わざとらしくにっこりと微笑めば、目の前の彼もまた、ニコニコと笑い返す。


「最初から気付いていたんですね、白蘭。・・私がボンゴレ側の人間だと言うこと」
「ん♪だってキミはいつも僕を否定的な目で見ていただろ?僕ってさー人の視線とかに敏感なんだよね。これも職業柄かなあ」
「そうですね。・・では何故私を側に置いていたんです?ボンゴレがターゲットなら私も対象の筈です」
「んーそれにはさ、ちゃんとした理由があるんだよねー」
「…理由?」
「やさしーナマエチャンがどうするのか確かめてみたくて」


アメジストがちいさく揺れる。あぁこの人はなにをしたいのだろうか、どうしてそんな目で私を見るのだろうか。まるで、


「今は亡きボンゴレの元に帰るのと、未来永劫僕に囚われるのどっちがいい?」


今は亡き。その言葉は私を掻き乱すには充分で、心臓が鷲掴みにされたように縮む。ダメだ、落ち着け。速くなる息を抑える。元々はボスの命令だったこの任務。だけど今は?ボスが亡くなってしまった今、私がスパイを続ける意味は無かった。私のすべては彼だから。ボスはいない。そんな私に帰る場所はあるの?


「だけど、私は」
「ねぇ、どっちを選ぶ?」


つぅ、と私の頬をひと撫でする白蘭。そのアメジストの瞳はどこか寂しくて、まるで助けてと叫んでいるかのようで。おかしいね、この人はそんな弱い人じゃなかった筈なのに。もしこの手を振り払ったのなら、私はこんなに寂しい人をひとりぼっちにさせてしまうことになるのだろうか?何もない、この人を。


「私・・は、」


そして彼の名前を呟いた


「・・・そっか」


今にもこの空間に溶けて消えてしまいそうなくらい小さな声だった。ちゃんと見ていなければ見逃してしまいそうな儚げな笑顔は私を捉えるのには充分だった。抱き締められた体は、あたたかい。


(ありがとう、そしてごめん)
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