ねえ、そんな顔しないでよ。
『白蘭、約束してね』
僕とキミとのあいだには、ひとつの約束事があった。そんな口約束なにになるのかと思ったけど、まぁキミとなら悪くないかな、なんて思って小指と小指を繋いでゆびきりをしたんだ。どうやら破るとハリセンボン…じゃなくて針千本らしい。あぁ困ったな、いたいのヤダし、守らなきゃ。そんなことに小さなしあわせを感じた僕は、自分でも本当に世界を手に入れるという野望を持っているのかと疑うくらいそのへんの人間と変わらなかった。キミが僕を人間らしくしてくれる。キミが僕をあったかくしてくれる。ねぇ、この気持ちは嘘なんかじゃないと誓えるよ。
「びゃく、らん、」
僕を呼ぶその声がすきだった。
「…ねえ、笑ってよナマエ」
「っ、」
すきだよって言えば、真っ赤になってうつむくキミが愛しくてたまらなかった。
「やだよ…いかないで、いっちゃやだ…!」
だから、そんな悲しそうな顔しないで。いつもみたいに、おひさまみたいな笑顔を僕に見せてよ。あの時、僕からもひとつ約束したじゃない。僕が落ち込んで弱ったときは、必ずキミは笑っていてって。
「…またいつか、会えるよ。いや、会いに行くよ」
「…っ約束、してくれる…?」
「もちろんだよ。だから、キミも笑ってよ…?」
そう言ったら、彼女は涙でくしゃくしゃの顔でいっしょうけんめいに笑顔をつくってくれた。アハハ、無理矢理なのがバレバレ、だよ?だけど、約束守ってくれて嬉しいなあ。
『白蘭、約束してね』
キミの笑顔が霞んできた頃、いつかの約束が頭を過る。
『私には絶対に嘘をつかないって』
あぁ、それ破ることになりそうだよ。だけどハリセンボン…じゃなくて針千本はいやだなぁ。せめてマシマロ千個にしてくれないかな。ごめんね、そう心の中で彼女に謝ったときにはもう、なにも、みえなくなっていた
どうか、うそつきなぼくを
ゆるさないで、
(嘘ついてごめんね、約束守れなくてごめんね、傍にいてあげれなくて、ごめんね)
彼は、嘘をついた。約束を破った。会いに行くよ、その約束も守れない。だって、全パラレルワールドの彼は消えてしまったのだから。残った指輪を大切に持って、いつまでも約束を待ち続ける哀れな少女を残して。