「あ、小春ちゃん…って、なに食べてんの?」
「あ、ザキ先輩」


こんにちは、真選組監察方・島田小春でございます。今日は特にこれといった仕事はなかったので自室に戻ろうとダラダラと廊下を歩いていれば、ちょうど曲がり角のところでザキ先輩とバッタリ遭遇。いやァ今日もすがすがしいほどの地味さですね。


「なにそれ褒めてんの?」
「アイスですよ、アイス」
「無視かよォォ!アイスって…どうしたのソレ。まさかまたサボって買いに行ったの?」
「違いますよ失礼な。あれです、女中の子がくれたんですよ」
「え、女中の子が?」
「はい。なんか今日は暑いからコレ食べてがんばって下さいーって。しかも若くてカワイイ子。そしてあたしの好きな小豆バー」
「なにソレ。俺今までそんなこと一度も無いんだけど」
「まぁホラ。あたしフェミニストなんで」
「なにフェミニストって!?小春ちゃん一応女の子じゃん!!」
「なんだよ一応って。ま、日頃の行いと存在感の違いですかね」
「なんでそこ強調ォォ!?しかもそのドヤ顔すげームカつくんですけどォォ!!」


いやだってねぇ。あたしは監察方でしかも後輩っていう立場にも関わらずザキ先輩より目立ってて、なんでか女中の人は優しいしよくモノをくれる(有り難いけど)。カワイイ女の子やキレイな人にはやさしくしてるし、隊士の中で女はあたししかいないから同じ女として親身になってくれているのだろう。どちらにしてもザキ先輩よりは慕われているのは確かだ。

…これってザキ先輩、先輩としての立場ないような。


「ならザキ先輩もひとくち食べます?ハイ」
「あ、うんありが…って、えええええええ!!?」
「うおっ何ですか地味のくせに大声だして」


半分ほど減っている小豆バーをザキ先輩の顔の前に差し出せばザキ先輩はピタリと固まり、しまいにはあー、とかうーん、とか唸り出してしまった。なんだこの地味。何に対して悩んでんだこの地味。別に無理して食べなくてもいいんですけど。


「ちょっとザキ先輩。食べないんですか?」
「え、いやッ、」
「もしかしてザキ先輩、間接キスだーとか思って気にしてんじゃ…うわ、いい年こいてなんて乙女」
「なっ!?ちが…ッ」


そんなことしているあいだにもアイスはだんだんと溶け始め、ひんやりとした水滴があたしの手を伝う。ちょ、あたしの小豆バァァァ!!


「あァァァわかりましたもういいです。ったくザキ先輩のくせに人の親切をムダにしやがって…」
「!!……ッいや、待って」
「うおっ」


ザキ先輩の手が、アイスを持っていたあたしの手を掴む。冷たいアイスの水滴の感触と、それに被さるザキ先輩の熱い温度が混ざってなんだかもどかしい。


「えっと、ザキ先輩?」
「……………食べるよ」
「へ」
「これ、一口貰っていい?」
「え、あ。ドウゾっす」



ザキ先輩とあたしとアイス


重なっている手は大きくてちょっぴりゴツゴツとしていて意外にも男らしいものだった。驚いた、もっと柔であたしとあまり変わらないと思っていたから。

(ってかあんなに躊躇ってたのに気ィ変わんの早いな。やっぱり小豆バーうまいもんな)

そして、ようやっとザキ先輩がアイスにかじり付こうとしたその時、

ドォォォォン!!

なんかザキ先輩が爆発した。



(おいコラー。山崎のクセになに廊下でイチャついてんでィ)
(ヒィィィィ!!!お、沖田隊長ォォォ)
(うをををを今の衝撃でアイスがァァァ)

20100727
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