「ぐずっ、ぐすっ」

「こんにちはー」

「………またアンタ?」

「よっこらしょー」


頭上から降ってきた聞き覚えのある気が抜けた声に思わず眉間に力がこもる。こうしてヴァリアー邸の裏庭の隅っこでメソメソと膝を抱えて過ごすのはもう私の毎日の日課。一人になりたくてここにいると言うのに、このペーペーの新米くんはそんなこと気にもせずにこうして堂々と居座るのだ。


「毎日毎日飽きないですねー」

「毎回毎回なんでこんなタイミングよく来るのよ」

「いやー、ここを通るたびにナマエセンパイがキノコ生えそうな感じに沈んでるんでー」

「…人の不幸を楽しんでんじゃないわよ」

「そんなに堕王子がいいんですかー?」

「………うん」

「そこは素直なんですねー」


ベルは、私が恋心を抱いている相手だ。小さなことで嬉しくなる、些細なことで悲しくなる。まぁベルは私の気持ちに気付いていないし、気付いたとしても相手にしてくれることはきっと無いから毎日失恋しているようなものだけど。あぁ、なんだかんだでこの子は私の話し相手になっているかもしれない。だって、こうしてなんの気にもせず私の話を聞いてくれるのはこの子だけだから。認めたくないけど、この子といるとちょっぴり落ち着いている自分がいる。









「それでね、新米くんったら…、ってベル聞いてる?」

久しぶりにベルとふたりでランチに出掛け、今は食後のコーヒーに口づけながら他愛もない話をしていたときのこと。いつもならベルからペラペラと話しだすのに、今日は一言も喋らずボーッとこちらを見て(と言っても目は前髪に隠れて見えないけれど)黙ったまま。私の問いにベルはようやっと口を開いたのだが、それは予想もしていないもので私はピシリと固まることになる。


「なんかナマエ、最近カエルの話ばっかじゃね?」

「……え?」

「ナマエってアイツと仲良かったっけか?」

「…」


ベルの言葉に今度は思わず私が黙り込んでしまう。そのあとは、そんなことないよ!と適当に促し、それから会計を済ませてベルといっしょにヴァリアー邸に帰宅したはずなのだが、何故かぼんやりとしか記憶が残っていない。そして昼間のベルの言葉が頭にぐるぐるまわって焼き付いて離れない。気付けば、裏庭に行くことはなくなっていた。









「あれ、久しぶりに見たと思ったら今度はどうしたんですかー?」

その言葉の通り、久々に耳にした頭上から降ってくるその癖のある声に安心してしまう自分がいた。いつだってここにいる私を見付けるのは、この子だ。どうして、そう思うと急に胸が苦しくて思わず目頭が熱くなってしまう。


「…わかんない」

「は?」

「…アンタのせいよ。アンタが、アンタが私の頭から離れないから、」

「ちょ、ナマエセンパイ?」

「っ自分でもわかんないの!!…だけど、気付いたらアンタのことばっかで、アンタと一緒にいたら…自分の気持ちがわかんなくなってるの」

「…あのー」

「…なによ」

「自惚れてもいいんですかねー?」

「は?」

「あー、いやー」

「…なによ。らしくないわね」

「…ミーはあいにくハンカチなんかは持ち歩いてないんでー」

「っ!?」


これで我慢して下さいー。ぐいっ、ごしごし。かたい隊服の袖で拭われた目元はちょっぴり痛かったけど、それとは別の理由でまた大粒の涙が溢れてきてしまう。そうすれば少しぎこちなさそうに頭をポンポン、と撫でる手に胸が熱くなった。すごく、あったかい。


「とりあえずー」

「…うん」

「これからも傍にいてやりますから」

「…うん、」

「だからブサイクになるまで泣けばいいですよー」

「…っ、うん…っ」


あぁどうしてもっと早く気づかなかったんだろう。いつだって私の隣に居てくれたのは、こうして支えてくれたのは、この子だったじゃないか。思えば私はずっとこの子にすがっていたのかもしれない。もしも、まだ間に合うのなら。これからもこんな私の傍にいてくれますか?


「……ありがと、…フラン」

「お礼はチューでいいですからー」

「…ばぁか」



涙を拭うのはいつだってキミ

(これからはキミの為の笑顔を溢すから)


fin

切甘で主人公はベルが好きだったけど後輩のフランに惹かれていくという設定でした。ご期待に添えられているか不安ですが、スラスラと頭の中で物語が出来あがっていって書いててすごく楽しかったです(*´∀`*)フランくんはめったに書きませんが、だいすきです(誰も聞いてない)ちなみに「ばぁか」ってのが個人的にすごく萌えるので主人公ちゃんに言わせてみました。
それではよる様、リクエスト有り難う御座いました!凪
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