「ねえ、ナマエチャン」
「なに?」
「どうして言葉ってあるんだと思う?言葉は虚像も造り上げるし、偽りだらけだと思うんだ」

その問いにわたしはしばらく黙り込んだ。言葉にすれば必ず想いは伝わるだなんて思っているほど私はバカじゃない。例えばずっととか、永遠とかそんな言葉はただの戯言に過ぎないのに、厄介なことに私たち人間はそれがなくては生きてはいけないのだ。あぁきっと神様はそんな人間という暇潰しの駒を空の上から愚かだと嘲笑って楽しんでいるに違いない。人間が紡ぐ言葉など、只の気休めと言う呪いの言葉でしかない、と。だけどそれでも言葉というものがあるのだから、わたしは神様に躍らされたっていいと思ってるよ。


「それでもなにかを誰かに伝えるためにあるんじゃないかな」
「・・そっか。じゃあさ、どうして感情なんてものを神様はつくったのかな」
「さあ?それはわたしにはわからないや」
「うーん、やっぱりそうだよね」
「・・あのね、わたしやっぱり」


『  』言葉が紡がれるよりも先に背中にやわい衝撃が伝わり、私の視界はぐるりと変わる。目の前には床同様、真っ白な高い天井を背景に、真っ白な彼が映っている。わたしの、なによりもたいせつなあなたが。


「ダメだよ、言わないで」
「でも やっぱりさびしいよ…」
「言ったら終わっちゃうから。その方がいやでしょ?」
「・・うん」


ふんわりと白蘭から香る匂いにくらりと目眩がした。あまい、蜜のような。とろりと溶けてしまいそう。ああ、ほんとうにこのままあなたに融けてしまえたらと。


苦しいほど想いは募るのに、痛いほど想いは伝わっているのに届かない、届けられない。言葉にしてしまったら、壊れてしまう気がした。手に入れてしまったら、いつかは失ってしまう気がするんだ。離れていってしまうのがこわい、戻れなくなるのがこわい、もう触れられなくなるのが堪らなくこわいんだ。ねえ、そんなことないよ。はやく気付いて、気付いて白蘭。伝えることはなんにもこわくなんかないの。たくさんの言葉なんて必要ないんだから。わたしはただ、たった一言だけ伝えたいの。ああ結局神様なんてただの傍観者。こわがりなあなたに『  』と。


おそらく空の上にいるであろう神様へ。あなたは言葉と感情というものを与えてくださったのに、どうしてわたしたちには伝える術というものをくださらなかったのでしょうか。



ああもうほんとは神様なんていないんじゃないの!
(真っ白のちいさな神様は、いまわたしの腕の中)
fin


白蘭で切なめ、両想いなのにお互い自分の気持ちを伝えられないという設定でした。白蘭は失うのがこわくて『すき』と伝えられなくて、主人公はその白蘭に合わせて『すき』だと伝えられないみたいな感じです。なんだかニュアンスが違っているような気がしてなりません(ガタブル)ほんとうは不器用だから想いを伝えられないみたいな話にしたかったんですけどなんか変な方向にいっちゃいましたああもう本当にすみませんでしたァァアア!!
こんなものですがユーリ様に捧げます。リクエストありがとうございました!凪
20100611
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