眩しくて、眩しくて、仕方がなかった。それに霞んでしまう自分の存在が情けないのと同時に憎くて悔しくて、やりきれない思いが私の心に募っていっているのは確かだった。狡い私はそれを隠すようにして、今日も彼の為に生きてゆくのです。
「ただいま ナマエ」
「お疲れ様です。紅茶淹れておきました」
「ん、ありがとな」
「・・綱吉さん、今日はお疲れですか?」
「え?」
新しく同盟を組むことになったファミリーとの会談を無事終え、執務室へと戻られた綱吉さんのジャケットを受け取って紅茶を差し出す。今日の綱吉さんはなんだかすこしだけお疲れのようだから、疲れに効くハチミツをいれておいてよかった。それを受け取った綱吉さんは私の言葉にすこしだけ驚いたような顔をして、私を見る。
「・・あー、ちょっとな」
「綱吉さん、ひとつだけお訊きしたいことがあるのですが・・」
「なんだよ?」
「・・その、綱吉さんは・・苦に思わないんですか?・・皆に、期待されるの」
「期待、か。んー・・別になんとも思ってないし、それに応えられないようじゃボスとしてやってけないと思ってるからな」
「・・・綱吉さんらしいですね。私も綱吉さんみたいに何でもできて、皆に必要とされる存在に、なりたかった・・です」
なんて馬鹿な質問をしたのだろうと今更後悔した。けれど、どうしても聞きたくて。たくさんの期待を受ける綱吉さん。どんなに多い仕事も、文句は言いながらだけれど一人できちんとこなしてしまう綱吉さん。ちょっとだけ意地悪なとこがあったり、ちょっとだけ悪知恵が働くけれど、あったかくていつだって皆の中心にいる綱吉さん。"大空"としてしっかりと使命を果たしている彼に、欠点などあるのだろうか。私もあなたのようになれたらと、何度も思った。羨ましかった。眩しかった。・・寂しかった。
俯く私に綱吉さんはハァ、とため息をつき呆れたように「ばーか」と私のおでこを小突いた。・・いたい、です。
「学生時代の俺を知らない人や、ナマエはそうやって言うけど、俺昔はダメダメだったんだからな?」
「え?」
「しかもアダ名はダメツナだったし。・・あー、ダメツナだなんて呼んでた奴らに一発かましてやりてぇ。絶対あいつらより稼いでる自信ある。・・マフィアだけど」
なんだかちょっぴり自分の世界に入り込んでいる彼をどうしたらいいのかわからず、いつものようにただ頷いてそれを聞く。・・それにしても綱吉さんにそのような口を聞くだなんて、なんて命知らずなのだろう。と言っても私は学生時代の綱吉さんは知らないし、ダメダメというのも信じがたい。だって私の知っている綱吉さんは、せんなアダ名なんて考えられないくらい素敵な人なのだから。
「・・まぁ今でも情けないとこはたくさんあるけどさ」
「そっそんなことありません…!だって、いつだって綱吉さんは私の憧れで…」
「まっ、基本完璧だけど」
「…」
「話を戻すけど、ナマエはいつも俺の負担がすこしでも減るよう手をまわしてくれてること、俺は知ってるし、感謝してるけど?」
「私にはそれくらいしか出来ませんから・・」
「それにさっきだってナマエは俺の変化に気付いただろ?俺は癖で表情には出さないようにしてるから周りは勿論気付かなかったし、正直さっきナマエに言われるまで疲れてるって自分でもわからなかったよ」
「でも、」
「だから」
私の言葉を遮るようにして紡がれた綱吉さんの言葉。やりきれない想いが交差する中、不思議と彼の言葉だけがするりと耳に入って伝わってくる。正直、綱吉さんの言葉は私には勿体無いくらいうれしい。もう死んでしまってもいいと思うくらい。じわじわじわ。溶けていく自分の中の醜い想いたち。やっぱり、綱吉さんは眩しくて仕方ない。だけど、だけど今はしっかりとその光を見つめることが出来る気がして。
「俺にはお前が必要なんだよ、ナマエ」
あぁ、もうほんとうに、どうしてこの人はこんなにも・・。
なみだが溢れるよりも先に、包み込まれた体と唇に感じたぬくもりがどうしようもなく愛しかった。
fin
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