「今日は名前ちゃんの歓迎会だァァ!」

近藤さんのその一言により、今は隊士の総出で歓迎会真っ最中。つっても呑んだり食べたり踊ったり呑んだり呑んだりのドンチャン騒ぎで、コイツら完全に歓迎会だと言うことを忘れてやがる。つーかもはや宴会じゃねーか。と言った俺も若干酒がまわってきているのだが。


「名前、楽しんでるか?って顔赤いぞ」
「あ、トシ〜うん、こんなに騒いだの久々だよー」
「おいコラ土方ァー名前が潰れてるとこをつけ込もうったってそうはいかねーからなァー死ね土方ァー」
「いやいやテメーら、どんだけ呑んだんだよ!ベロベロじゃねーか!」
「「えー?」」
「えー、じゃねーよ」
「どんだけって、たったこれだけでさァー死ね土方ァー。ねー、名前ー?死ね土方ァー」
「ねー、総悟ぉー?」
「これって一升瓶…しかも鬼嫁じゃねーか!つーか総悟テメー悪口を語尾にしてんなよコラ」
「土方死ね死ね土方ァー」
「もはや語尾でもなんでもねーしィィ!」
「るせーやィ。逃げるが勝ちでさァァ!!死ね土方ァァァ」
「あ、ちょ、待てコラ総悟ォォ」

「あー行っちゃった」









「総悟は?」

総悟との追いかけっこにより、まわっていた酔いが若干冷める。酒を片手に一人縁側で空を見上げていた名前の隣に腰を下ろせば名前はニコリと笑ってコップに口をつけた。


「いきなりコテンと寝やがったから部屋に寝かしといた。ったくまだまだ世話がやけんな」
「アハハ。やっぱり相変わらずなかよしだねぇ、トシと総悟は。兄弟みたいだよー」
「いやテメーらの方が姉弟みてーだぞ。こっちに来てからアイツ、なにかとお前にくっついてんじゃねーか」
「えー、そかなー。にしても、みんな盛り上がってるねぇ」
「…あー、わりぃな。歓迎会すんの遅れちまって」
「いやいやーわたし別に真選組に入隊したわけでもないし、知り合いなんか数人しかいないのに歓迎会なんか開いてもらっちゃって逆に申し訳ない感じ」
「もはや宴会だがな」
「アハハ、たしかにー」


クスクス笑いながら、名前は手の中のコップに目を落とす。注がれた鬼嫁は月の光が反射し、ゆらゆらと揺れている。伏せられた名前の目蓋に縁取られている長い睫毛は緩くカーブを描いており、頬はアルコールのせいかほんのり桃色に染まっている。…コイツこんなに女っぽかっただろうか。色気もクソもねーガキだったのがたった数年でここまで成長するとは正直驚きもんだ。

……ってイヤイヤイヤ俺ァ何考えてんだ!?

脳に浮かぶ妙な考えを掻き消すようにぶんぶんと頭を振る。やべェこれ結構酔いが来てんな心なしか心拍数上がってやがるし体熱ィし。いやいやいや酔いじゃなきゃおかしいだろ。の割には今はしっかり考えられ……てんのか俺!?

「…っ!?」

と、そのとき自分との戦いに奮闘している俺の肩に、ふとやわらかな重みが伝わる。それが名前の頭だと理解するのは簡単だったが、いかんせん先程の妙な考えのせいで俺の頭はショート寸前、きっと今俺の瞳孔はいつもの三倍かっぴらいているだろう。名前の柔らかな髪が顔をくすぐり、名前の甘い香りが鼻をかすめる。……ちょ、マジでやめてェェェ!!俺にこれ以上試練を与えないでくれェェェ!!もちろん俺の思いなんぞ知る由も無い名前はそんなのお構いなしに、その濡れた唇をうっすらと開く。


「ねぇ、トシ」
「ぬぅわァァ!?いやいやいやいや俺ァ別に変なこと考えてねーぞ!!?」
「なにソレー」
「え、あ、いやこっちの話だ」
「…本当はさ……わたしなんて…守る必要、ないんだよ」
「……名前?」
「だって、わたしは……」
「……」
「すぴー」
「……………は?」


気の抜けるような規則正しい呼吸が耳に届く。恐る恐る「オ、オーイ」と呼びかけてみても返事はなく、どうやら完全に寝入ってしまったようだ。…なんつーか一安心、というか残念というか。…っていやいやいや残念ってなんだよ俺!!!


「……」


柔らかな髪に指を通しながらチラリと目をやれば、そこにはまだ幼さなが残る寝顔があり、なんだかいろんな意味でほっとした気分になった。


『アハハ、でもトシも近藤さんも総悟も変わってなくて安心したよ。それなのにわたしは…』


今朝の言葉が頭を過ぎる。俺はちゃんといつも通り接せられていただろうか。悟られて、ないだろうか。


「……テメーは本当に変わっちまったのか?」


なにか隠していることは、とっくに気づいてる。
わかってる。それでも言い出せない俺は、きっとお前を最後まで信じていたいんだと。


きっとお前は
涙を見せずに泣くんだろ



(頼むから、あんな泣きそうな顔して笑うな)

20100716
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