空いてしまった空白。出来てしまった溝。それらを埋めることはきっともう出来ないだろう。もうそこには消えることのない『彼』が埋め込まれているのだから。



とある男女の熱い夜の話




その日も同じように蒸し暑い夜だった。
どうも寝付けずフラフラ歩いていると、ある部屋から幾分聞き慣れた三味線の音が耳に入る。こんな夜中になにやってるんだと思いつつ、控えめにノックをして部屋へと入ると、窓辺に腰掛けていたシルエットが振り返る。


『どうした。寝れねーか』
『べ、別に』
『エリカ様か』
『た、大変だァァこの人がボケたァァ!!……いやただちょっと夜風に当たろうかなって思っただけ』
『ははーん…』
『な!なにその顔は!!』
『ククッ、一緒に寝てやろーか?寂しがり屋の名前ちゃんよォ』
『…っ!!』
『寂しいなら寂しいと言やァいいだろうよ。テメーはテメーの気持ちを殺しすぎだ』


それはお互い様、でしょう?

なんて言えるはずもなく、喉まで出かかったその言葉は飲み込んでちいさな沈黙が流れる。だけどそれは嫌なものじゃなくて、なんだか心地が良かった。

と、そのとき。

『わっ!?』

ばふん!突然思いっきり張り倒され、咄嗟に次に来るであろう衝撃に耐えようとしたが、尻餅をつくようにして倒れた先は畳ではなく、柔らかな布団。それが彼のものだと理解するのは簡単だったが、そう考えた途端に体の熱がぐんっと上がった気がした。ゆっくりとこちらに歩み寄る彼。

『な、なにす、』

え、え、え!?ちょ、わたしたちそんな関係だったっけ!?そりゃこんな夜中に男女が同じ部屋にいたらアハーンだけどわたしたちはただの仲間であって…、

(…わたし、仲間なのかな)

ふと頭に浮かんだ疑問。
彼が手をさしのべた。彼の手をとった。彼の元に来た。彼についていくと決めた。だけどそれだけの関係は一体なんと呼べばいいものなのだろう?わたしは彼の、彼らの仲間と呼んでいい存在なのだろうか。

(っていまはそんなこと考えてる場合じゃなかった!!)

そして布団の前まで来て彼がゆっくりとしゃがんだとき、バサッとなにかが彼の匂いを連れて覆い被さった。……あれ、視界が白い。


『ホラ、餓鬼はもう寝ろ』
『……あぁそう言うことねそう言うことだよねアハハハ。な、なにも急に突き飛ばさなくたってアハハハ』
『あ?』
『なんでもございまセン!!おやすみ!!』


アハーンな展開を予期してテンパってました なんて言えるわけないィィ!!
沸騰しそうな顔を隠すように布団に潜れば鼻いっぱいに彼の匂いが通り、すこしだけ心臓が高鳴った。…男のくせになんでこんなにいい匂いするわけ。

(…あれ、)

眠りにつこうとするわたしに気を遣ってくれたのか、ふと三味線の音が止んだ。子守歌みたいで心地よかったのにな…なんて思いながらちいさく口を開いた。


『…ねえ』
『なんだ』
『……いなく、ならないよね』
『…』
『アンタたちは、いなくならないよね?』
『さぁな。心配ならテメーが振り落とされねーようにその手をしっかり掴んでいりゃァいいんじゃねーか』
『……うん。…て、あれ?なにしてんの?』
『ンな顔しやがって…』


途端にのし掛かる重みに、恐る恐る顔を上げればそこにはなんともビックリ。わたしに跨る彼の姿がありました。


『今夜は寝かさねェ』


…マジすか

20100720
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