『俺ァ、テメーを信じてる』
その言葉はわたしの心を支配するには十分だった。すべては彼のため。そのためならわたしはどんな嘘だってついてみせるわ。
それなのにどうしてこんなにも、
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「おいコラ総悟どこだァァ!!」
「朝からドタバタうるさァァい!!」
「ゴファ!!」
「あれ、トシ?」
「て、てめェ…」
朝7時。廊下から響くバタバタとした足音と脳に響く大声にイラつき、元凶と思われる方に部屋の扉を突き破って飛び蹴りを喰らわせればわたしの下敷きになったのはよく知る彼だった。
「アハハ、ごめんねトシ。わたし知っての通り朝は低血圧でさー」
部屋に招き入れ、赤く腫れてしまったトシのおでこにシップをぺたりと貼ってやる。そのちょっと間抜けな姿にニヤニヤしてれば、仕返しとばかりにおでこを拳でゴッと小突かれた。もちろんこれが痛くないわけない。
「痛ァァ!!え、ちょっ、い、痛ァァ!痛いですよトシクン!?ちょ、コレおでこ割れてない!?」
「安心しろ、腫れただけだ」
「ヤダー!これじゃトシとおそろいになっちゃうじゃん。おでこにシップ、略してデコシップじゃん」
「お互い様だろ。つーか低血圧の奴が朝っぱらから飛び蹴りなんざ出来るか。テメーの場合寝起きが悪りィんだよ。ったく、部屋の戸ぶち破れたじゃねーか」
「すみまっせーん」
「ハァー、…ったく変わってねェな、ほんと」
「わっ、」
おっきくため息をついたトシの手がこちらへと伸び、それがわたしの頭にぽんと落ちる。あったかくて大きくて、ちょっぴり乱暴なトシの手は変わっていない。
「…トシも近藤さんも総悟も、みんな変わってなくて安心した。まぁトシはツッコミが激しくなったし近藤さんはストーカーゴリラになっちゃったし総悟は腹黒ドSになっちゃったけど」
「いやそれ変わってないって言えんのか?」
「うん」
時と共に人は変わると総悟は言った。けれどあったかくてやさしくておもしろくて、バカみたいにお人好しなところはなにひとつ変わっていない皆はわたしの大好きだった人たちに変わりはなくて。それに比べてわたしは…、
『よう、つまらねーって顔してんな』
『…』
『どうだ、俺と一緒にこねーか』
『…もしその手を取ったとして、わたしになんの得があるの?』
『そうさなァ…テメーの世界を変えてやるよ』
『わたしの、世界、を…』
差し出されたその手をわたしは、
「名前?」
「…っ!あ、ごめん」
この数年はわたしには大きすぎた。
「あの話だが」
「…!」
「いやなら断っていいんだからな」
「…トシは、どう思ってるの?」
「…俺ァこのあいだ話した通りだ。テメーはなんの心配もしなくていい」
「うん」
「俺が守ってやっから」
そう言ったトシの顔は見れなかったけれど、どこか切なさを含んでいたのは確かで、それでもわたしはただ「うん」と笑顔で呟いた。
気づかないふりをしても
心は潰れそうになった
(けど、それでもわたしは、)
20100717