「久しぶり、総悟」

久しぶりに見たアイツは、土方コノヤローの隣でちいさく笑っていた。


懐かしい香りに、
胸が締め付けられる気がした




「…久しぶりです、名前」
「え、なになにどうしたの!?そんなにかしこまっちゃって総悟らしくないじゃない熱でもあんの?」
「よう久しぶりだな、雌豚」
「それはくだけすぎだろォォ!!」
「め、雌豚ってどんな育て方したのよトシィィィ!!」
「違ェから!!コイツが勝手にスクスクひねくれてっただけだから!!」
「やだなァ土方さん。アンタがいまここでこうして息をしているせいで俺はこんなふうになっちまったんでさァ」
「んだよソレ!?俺が生きてるせいって言いてェのか!?俺に死ねってか!?」
「その通りでさァ。わかってんならここで今すぐ死ね土方ァァアア」
「なっ、ちょ、待て、コラ総悟ォォ!!」
「…まあ変わってないっちゃ変わってないような」


バズーカをぶっ放す俺と刀を振り回す土方さんの中に「わたしも混ぜろやァァ」とかなんとか言って飛び込んできた彼女はかつて共に過ごした頃のアイツとなんら変わっていなくて、まるで昔に戻ったようだ。ただひとつ違うのは、そんな俺らをクスクスと笑いながらやさしく見守ってくれていた姉上がいないということだけ。

土方コノヤローは仕留められなかったのが心残りだが、しばらく騒いだあとコイツの相手をしてろと言われ、ふたり縁側に適当に腰をおろすと名前は捲っていた袖を直しながら満足そうに笑った。


「はーっ、楽しかったー!久しぶりにこんなに騒いだ!」
「そりゃよかったでさァ。それはそうと、江戸に来てたとは聞いてやしたが何用でいきなり真選組(ここ)へ?しばらく泊まると言ってやしたがなにかしら理由(わけ)があるんでしょう」
「あー、うん。…そうねぇ、会いたかったからー、とかじゃダメですかね総悟クンよ」
「ダメでさァ」
「あ、やっぱり?んーとね、まず話さなきゃいけないことがあるの。…いろいろと」


いろいろと。

そう言った彼女の横顔はなんだかすこしだけ曇って見えたが、それについてはなにも触れないでおく。くるくると艶のある髪を指に絡めながら「んー」と呟きのあとすこしの沈黙が流れる。これは彼女の昔からのクセだ。そんなところも変わっていないんだなと思うとなんだかすこし嬉しくて、名前には気付かれないようにちいさく笑みを浮かべた。


「わたしね、みんなが武州から離れたあと養子に貰われたの」
「養子?そりゃまた驚いた。んなのまったく知りやせんでした」
「当たり前でしょ。だっていま初めて言ったんだもん」
「いーからとっとと話を進めなせェ。あと「もん」とか言ったってちっともかわいくねェでさァ」
「……総悟さー昔っから口悪かったけどなんかさらにパワーアップしたよね?」
「時と共に人は変わるもんですぜ」
「……まぁいいや。それで引き取り手の人がとってもいい人でねー、養子を組んだ理由が孤児だったわたしに家族っていうものを教えたかったからなんだってさ。ははは、ほんと物好きよね。わたしみたいな捨て子をわざわざ選ぶだなんて」
「……」
「おーい総悟ー?」
「…なんかムカつきまさァ」
「は?なんでよ」
「アンタの家族は俺らがいるじゃねェか」
「え」
「っ、!」


言ったあとにハッとした。なに言ってんだ俺は。無意識に出た、らしくない言葉に思わず口を塞いでふと隣に目をやれば、豆鉄砲を喰らったようななんともアホな面をしている名前がいた。


「えーっと…」
「……」
「そうだったよね、ありがとう総悟」
「……るせーやィ」


そんなガキみたいな言葉しか返せない自分はやっぱり彼女よりガキなんだと思うとなんだか悔しかった。昔からそうだ、いつもは年下の俺と変わらねェようなガキだったのに、ケンカしたあと意地張る俺を見て謝るのは決まってコイツ。ありがとうもごめんも全部コイツからだった。でもさっきの言葉に嘘なんてなくて、昔も今も俺はコイツを家族だと思っているし、それはきっと近藤さんや、不本意ながら土方さんも同じだろう。


「…それじゃ俺はそろそろ戻りやす」
「え、あ、うん。仕事?」
「昼寝と言う名の立派な仕事でさァ。あー気合い入れてやらねーとなァ」
「いやそれ思っくそサボりだよね?昼寝ってあきらかにサボりだよね?……あー、えっとまぁ付き合わせて悪かったわね。でも…久しぶりにこうやって話せてよかった」


あぁ、ほらまただ。

長く緩やかにウェーブを描く睫毛を伏せながら呟いた彼女の顔は幼い頃の面影があるものの、かつてのものより大人びていて改めてコイツは女なんだと実感した。よっこらせと背を向け立ち上がり、数歩歩いてから「あァ、それと」と呟き言葉を続ける。


「そのシケたツラ、似合いませんぜィ」
「っ、!…地顔よバーカ」
「そうですかィ。これまた残念なこった」
「んだとコラ。オネーサン怒るわよ」
「んじゃ」
「………ありがと、総悟」


最後のちいさな呟きは確かに耳に届いていたが、それは聞こえないふりをした。さっきから見せる何か思い詰めるような顔に気付いていないわけがない。俺だって大人になったんだ。だけどそんなこと思ってしまう俺はやっぱりまだまだガキなのかもしれねェけど。

空白の間になにがあったか知らねえ。なにを思ってここに来たのかも知らねえ。だけどただひとつ言えるのは、アンタにはガキみてェな笑顔が一番お似合いだってこと。

20100706
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