きみにあげる、わたしの花束 その日の天気は確実に晴れていていい天気だなという事は確認できたが、それ以上の事を確かめる事は出来なかった。いつものようにぐっすり眠りについて健康的に気持ちよく目覚めたので軽快な足捌きで部屋から出たら母親であるクシナが扉の前に仁王立ちしていた。 普段なら挨拶をしろと怒られるのに今日はそれすらすっ飛ばすみたいにはいはいと素早い動作で洗面台へと背中を押され、歯を磨き顔を洗わされた。タオルが顔面に飛んできたから拭いていたらまた背中を押された。今度は早く部屋に戻ると唆される。今日俺は修行に行かなきゃ行かないんだってばよ、そう伝えても聞く耳もたずで部屋へと放り込まれた。 一体なんなんだと思っている間に扉の向こうからガタンガコンドゴン、床への衝撃音がこちらの部屋まで響き渡って、ナルトは驚いたままドアノブは回すが向こうに押す事はまるで出来ず効果を成さなくなった。大量のガラクタやらで開けないように向こう側から押し付けられているのだろう。 「な、なんなんだってばよ…」 その経過のあまりに瞬間的な事にナルトは目が点になっているのを感じた。突然部屋に閉じ込められるというのはいくら自分のものでも不安になるものだ。とりあえず周囲を見回す。そうだ窓があるじゃないか、人一人くらい通り抜けられる大きさの窓に手を掛け顔を出す。 「母ちゃん一体何考えてるかしらねーけど…俺を閉じ込めるには甘いってばよ!」 「…それはどうかな?」 笑いながら屋根に足を掛け部屋から飛び出そうとした瞬間、パシリと腕が掴まれ動けなくなった。誰だと言いたげにそちらに振り向く。視界に飛び込んできたのは彼より明るい陽の光に透けた黄色の髪、父親であるミナトだった。 「と、父ちゃん…」 「おはよう、いい朝だねナルト」 「おはよう…じゃねえってばよ!全然いい朝じゃねえし!なんなんだよ!」 「見張っててくれって頼まれたんだ。クシナだって忍だからね、抜かりはないよ」 「うぐっ」 「今日は部屋で大人しくしててもらうよ」 「ふ、ふざけんじゃねーってば!状況説明してくれよ!」 「悪いんだけどそれは出来ないんだな…」 「なんだよそれ!」 盛大に誤魔化され、相変わらずも状況という線路から思い切り外れたまま、再び押されるように部屋へと戻される。ついでに見張るぞと言いたげにミナトも窓から入ってきた。黄色い閃光の名は伊達じゃない、ナルトが再び外へと逃げ出そうとしたら彼の光の速さが炸裂するのだろう。 「わっけわかんねえ…」 「はは」 ぶつくさ言いながらタンスを引き服を引っ張り出す。てきぱきと着替えたと思ったら再びベッドへと戻っていく。 「なんかよくわかんねーし、もっかい寝るってばよ」 「うん、準備にももう少し時間が掛かるし、それがいいと思うな」 「…準備?」 「な、なんでもない」 しまったとあからさまに口を押さえるミナトに不信感を覚えたが、さっさと布団を被って眠ることにした。大した時間も経ってないというのにどっと疲れが溜まったような気分で、案外睡魔は近くにいたようだ。 次に目を開けた時部屋は静けさに包まれていて、しかし妙にこざっぱりとした感覚もする。座布団に腰掛けていたミナトの姿はなく、窓から上半身を乗り出し辺りを360°確認してもその姿は見当たらなかった。これは逃げ出してもいいってことだろうか。ようやく外へ出れると嬉々したナルトはいそいそと足を窓枠にかけるが、ぽつぽつと頭の中で"ここで確かめなければ後悔するのでは。"何故かそんな念が押し寄せ、足を床へ降ろし背後にある扉を一度確認してみることにした。 「まあ…開かなかったら窓から出る…」 そんなことを呟きながらドアノブに手を掛けると、案外簡単に回って「開いた!」そんな喜びを露わにしながら確認もせず思い切り扉を向こう側へ押すと、バァン、盛大に何かにぶつかったような音がした。 「ぶっ」 「ぎゃー!サ、サスケくん!」 「!?」 ここにいるはずのない、しかしよく聞き慣れた声にぎょっとして慌てて部屋から飛び出す。そこにいたのは盛大にぶつけたせいで微かに赤くなった鼻から額の辺りを労わるように手をやるサスケと、それを心配そうに見つめるサクラの姿があった。 「テメェ…」 「サ、サスケ!?なにやってんだってばよ!サクラちゃんも!」 「アンタ空気読みなさいよ!なんで今のタイミングで出てくるわけ!?」 「そんなん知らねーってばよ!なんなの!?今日なんなの!?」 「それすら覚えてねえってか…このウスラトンカチが…」 「アンタほんとアホね!」 「い、いきなり来といてそんなボロクソに言われる筋合いないってばよ!」 「本当に覚えてないわけ?四代目の言うとおりね…今日はアンタの誕生日よ!」 「!」 呆れかえったような物腰でびしりと指指すサクラの言葉に、ナルトは壁に掛けられたカレンダーを見に戻る。花丸が付けられていた。自分で付けたのに修行に熱中しすぎて完全に忘れていた。 「あー!そうだったー!」 「コイツ…アホくせえ…」 「うっさいってば!んでもナニナニ!?二人して祝いに来てくれたの!?」 「アンタ見てると祝う気も失せるわ…」 「でもそーなんでしょ!そーなんでしょ!サンキュー二人とも!」 先程までの疑い深い眼差しなどとっくに消え去ってしまったらしい。 頷くのも悔しくなるほど嬉しそうにニコニコ笑うナルトに二人は苦笑いを漏らした。 「三人ともー!」台所からクシナの声がする。三人は足早にそちらへ向かった。突っ走るナルトを見て、連れに来たのに連れて行かれている気分だとサクラは忙しくため息をついた。部屋にはカラフルなテープが飾られていて、日の光でキラキラと輝いていた。ぐるりと一周見回しテープと同じに目を煌めかせ驚嘆の声を上げながら部屋中を駆け巡る。幼稚園児のようだと揶揄したサスケの声は今の彼の耳には届かなかった。 「ケーキ!ケーキないの母ちゃん!」 「図々しい子だってばね…今ミナトが買いに行ってるわ」 「やった!」 「それよりこの飾り付けこの二人も手伝ってくれたんだから!アンタがぐーすか寝てる間大変だったのよ!」 「え、マジ!?てか寝るのはしょーがねーだろ!閉じ込めるとかひでーよ!」 「そうするしかなかったの!ごめんね」 微笑ましい言い合いをしている間に「ただいまー」と玄関の方からミナトの声がした。全員であたたかく迎え入れたつもりが部屋へと帰ってきたミナトの顔はなんだか浮かない。 「ミナト?」 「ケーキ、オレの前に買った人で売り切れちゃったんだって…」 「ええー!」 「なによそれ!奪ってきなさいよ!」 「そ、そんなこと出来ないよ…ごめんナルト…」 しょんぼりと申し訳なさげに肩を落とすミナトに、ナルトは勢いよく首を横に振る。「ありがと父ちゃん!気持ちだけで十分だってばよ!」笑ってそう言うナルトを包み込むように抱き締めた。反対側からクシナもくっつく。ぎゅうと圧迫されるような感覚に照れ笑いが滲んだ。 「誕生日おめでとう、ナルト」 「…へへ」 「ほら、二人もくっつく!」 深い家族愛を見せ付けられ若干の居た堪れなさを感じていた二人をクシナは無理やり引っ張り込んだ。どうしようもない気持ちで恐る恐る回された二人の手を見つめてナルトの笑みが深くなる。 「へへ、なんか恥ずかしいってばよ」 「こっちの台詞よ…」 「…フン」 「…いつも賑やかだねーこの家は」 頭を支配するゆるい幸せのオーラが一瞬で取り外された。ヒィィと三人の奇声が重なる。どさくさに紛れたゆったりとした声。目の前にカカシが立っている。どう考えても玄関から入ったとは思えない、こういう時に存在を消すのはやめろとサスケが叫んだ。 「カカシ!どうしたんだ?」 「いや…ナルトが誕生日って聞いたんで、プレゼントをね」 ほらと手にぶら下がるスーパーの袋。覗かなくても中身が分かった。飛び出た人参のオレンジやらぼこぼこと歪なじゃがいもの存在感を指し示してツッコミを入れる。 「野菜じゃねーか!」 「野菜だけじゃないぞ、カレールーも入ってる。いっつもお前人の野菜無駄にするからな、今日こそは食べてもらおうと」 「誕生日プレゼントにカレーの用意貰ってどうしろってんだ!」 甲高い怒声が響き渡る中スルーをするように左手からもう一つ差し出されたのは四角い箱だった。 「ほら、ケーキもあるから」 「あー!」 今度は息子より先に親の声が響き渡る。何だと言いたげなカカシの冷ややかな目線がミナトへと向けられた。 「お前だったのか!俺の前に買ったやつー!」 「あー…そう言えば最後だとか言ってたような…ひょっとして買いに行きました?すいません」 「まったくもー!連絡ぐらいしといてよ!」 ぷんすか、女性のように怒る彼が自分の先生だと思うとなんとも言えない気持ちになった。カカシはケーキを置いて任務があると言い残し、ナルトの頭をぽんぽんと撫でたと思ったら煙を撒き散らし去って行ってしまった。 「申し訳なくなるくらい忙しいねカカシは」 「ケーキは嬉しいけど野菜なんていらねーってばよ!」 文句を言いつつもしかして奥の方には、そんな期待をしてスーパーの袋を荒く物色してみるが、奥底に進めば進むほどに森のように鮮やかで緑々した野菜が埋め尽くされていた。カレーに入れて合うのかすらわからないものまで入れられてどうしろと、ムキーと喚きながらゴロゴロと転がりながら場所を取るじゃがいもを宙へぽいと放った。 それをしっかりキャッチしたクシナは怪しくにぃと笑う。 「せっかくだからカレー作る?誕生日カレー」 「あ、私も手伝います…」 「あー!サスケ!袋に納豆も入ってる!」 「何故それを俺に言う」 「にし、お前どーせケーキも苦手なんだろ?サスケの嫌いなモンだらけにしてやろ!サクラちゃんこれも入れてー!」 「おいやめろ!」 「クシナさん!ナルトのカレーには野菜まるごと入れてやりましょう!」 「それいいわね!食べれなかったらケーキ無し!」 「おいい!じゃあサクラちゃんの分めっちゃ辛くしてくれないと不公平だってばよ!」 「絶対!嫌!ぶっとばすわよ!」 「皆、楽しいのはいいけど美味しく食べれるものにしなよ…?」 Happy Birthday to naruto! Sunx 花洩 |